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773.南方戦役20

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「たっ戦う。戦えるから。
例え脳が焼かれてもあいつらには負けないから」
泣きじゃくりながらも短刀を両手に構えるサリナだった。

「そうそうその意気その意気。
当方、魔術師な上にか弱い美女なので、
前衛がいないと困るのですよ。
サリナ、前衛は任せた」
シエンナは杖を大地に突き立てた。
そして両手を大きく広げて、詠唱を始めた。
「まっ取り敢えずは定番の補助魔術系の
オンパレードになるかな。
サリナ、あのでか物は、むかつけど、
レアリティは高いし、戦闘経験も高い」

「いくら能力を嵩上げしようとも
今のサリナじゃ勝てないから。
アルたちが合流するまで負けない様に立ち回って。
みんなすぐ来るから」

言い終えると高速で補助魔術を展開した。
サリナは、ひっきりなし神よりさまざまな啓示を受けていた。
それだけでも集中力を乱されていた。
無論、啓示は無視しているためにアミュレットで
緩和されているが、身体中がキリキリと痛んでいた。
 サリナの歯茎から血がにじみ出ていた。
あまりにも強く歯を噛みしめていたからであった。

「俺様に刃をむけるとはな。
サリナ、後でたっぷりとお仕置きが必要なようだな」
黄色い歯を覗かせながら、
ガイダロフが陰湿な笑みを浮かべていた。
心傷から一瞬、サリナは身が竦んでしまった。
しかし、後方からのシエンナの言葉から千晴の名前が
聞えて、サリナを勇気づけた。

「千晴様、サリナを助けたまえ~助けたまえ~。
彼女の心に勇気を与えたまえ~
どうか励ましのお言葉を与えたまえ~」

そもそもシエンナは神と対話できる訳はなかった。
神がシエンナの言葉に応じる訳がなかった。

ここは戦場であった。

お祈りや念仏より魔術による攻撃やサポートの方が
より実効があった。
ついつい場違いなシエンナの行動にサリナは
ひっきりなし浮かび上がる啓示のことを
忘れてしまうほどに呆れてしまった。
そのことが何となくサリナにはおかしくて、
吹き出して笑ってしまった。
サリナは少し気分が楽になった。
しかし対面するガイダロフは真剣そのものであった。
北関では神の懐紙が誠一に舞い落ちて、
ガイダロフの立場を著しく追い込んだ。
そのことをガイダロフは思いだしていた。
そんなことがここで起きれば、一気に味方の士気が下がり、
戦況は誠一たちに有利に運ぶことは明白であった。

「シエンナ、サリナ。
直ぐにそっちに向かう。少し頑張って!」
誠一が少し離れたところから、
野盗たちを相手にしながら叫んだ。

「アルっー俺とアミラで囲いに穴を開ける。
お前だけでも先行して行け。アミラ、力を貸せ」
誠一と背中を合わせるヴェルが絶叫した。

「当たり前なのです。手薄なところに突撃です」
ヴェルとアミラが討って出た。囲いの一部に隙間が生じ、
そこへキャロリーヌが幾本もの矢を放ち、
更にその隙間を大きくした。

誠一はそこへ全速力で突撃し、その隙間から囲いを突破した。
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