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770.南方戦役17

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ガイダロフより遥かに早い動きで誠一は、
7面メイスをガイダロフの肉体へ叩きつけた。
鋼を叩いたような感覚しかなく、
肉や骨を殴りつけたような手応えを感じなかった。

「無駄だ」

それでも尚、叩きつける誠一。

「うぜえ、いい加減にしろ」

それでもやめる事無く叩きつける誠一。

「くそがが、いらつくんだよ」

それでも無言で叩きつける誠一。

ガイダロフの意識は完全に誠一に向けられた。
そしてガイダロフの意識から完全に忘れ去られたキャロリーヌが
一本の矢を放った。

「我が矢は稲妻如く奔る、飛電弓。
放つ矢は、如何なる障壁があろうとも必中。百発百中の儀」

キャロリーヌは一本の矢に二つの技を重ね合わせて放った。
並みの弓兵には到底、なせる技では無かった。
稲妻を宿した矢はガイダロフの傷ついた腹部に刺さった。
そしてガイダロフの全身に稲妻が迸った。
白目を剥くガイダロフ、ふらふらと前後に身体が揺れていた。
そこへ誠一が7面メイスで力任せに殴りつけた。

ガイダロフはそのままばたりと倒れた。
そして、むくりと立ち上がった。
黄みがかった濁った白目のまま、ふらふらともたつきながら、
ガイダロフは無造作に腹に刺さった矢を抜いた。
傷口から血が噴き出した。
目は、白目のままで何も映していなかった。
右手をだらりと垂らし、その手に持つ戦斧を引きずりならが、
誠一たちに近づいて来た。

誠一とヴェルは突然のガイダロフの変貌に
呆然としてしまった。
その瞬間、突然、ガイダロフの濁った白目に瞳が戻った。
誠一に肉薄すると大きく振り上げて戦斧を振り下ろした。
何とか躱したが、誠一は纏っていた漆黒のローブを
斬られてしまった。

「テメー死ねよ」
ヴェルの怒りが一瞬で沸騰した。

「死あるのみです」
静かに死を宣告するアミラだった。

「ああっ千晴様。
どうかこの下種を殺します故にお許しを」
空に向かい、許しを請うキャロリーヌだった。

「おまえは千晴様より下賜された至高のローブに
とんでもない事しでかしてくれたな」
怒りを何とか抑えながら、侮蔑の目を向けるロジェだった。

「ぷわわっわっわはぁー千晴様だと、なんだそりゃ。
神に名を付けるなんて、何かの冗談か?」
死んだふりを止めたガイダロフはゲラゲラと笑い転げた。
ガイダロフは自ら死刑を宣告したようなものであった。

ヴェルの背に蒼白い巨大な炎の翼が広がった。

アミラの動向が細くなり、感情の起伏を感じさせぬ爬虫類を
思わせる風貌となった。

キャロリーヌの弓の弦から軋む音が鳴った。

ロジェが地面を蹴り上げ、ツヴァイヘンダーを
肩口に乗せる様に構えた。

その様子を見て尚、ガイダロフは内心は
どうであれ余裕綽々の態度であった。
そして、数本の回復薬を一気に飲み干した。
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