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750.周辺地域の情勢1

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 北関を境にして、ヴェルトゥール王国と
ダンブル派の睨み合いが続いていた。
前回の大戦の傷跡は未だに癒えず、
お互いに大軍を展開できずに小競り合いが続いていた。

 ダンブルは既に居城グレートウォールに戻っており、
北関はレドリアンが城主として防衛していた。
その北関でレドリアンは、青白い顔で目の下を
常にぴくぴくさせながら、指揮していた。
声の抑揚が安定せず、指示を受ける諸将は、眉を顰めていた。

「ジェイコブを呼べ。
おまえは、無用に周辺にちょっかいを出すなと直接、言ってやる。
今は、無用な刺激をヴェルトゥール王国へ与えるなと」

左右で控える諸将の動きは鈍かった。
内心ではレドリアンの意見には賛同しているが、
失敗が目に見えている案を積極に行おうとしなかった。

レドリアンは何度もその旨の書状や使者を
ジェイコブへ送っていた。
それに対する返信や返答は殊勝であった。
しかし、その実、ジェイコブは出兵を抑えずに
着々と己の領土を拡大していた。

 誰も名乗りを上げず、目を合わせないことに
苛立ったレドリアンは、名指しした。
「ジェルラ殿、貴殿がジェイコブの元へ使者として向かいなさい。
はぐらかすようならば、北関まで同行させてなさい」

 名指しされた以上、ジェルラは受けざるを得なかった。
ジェルミラ家に連なる者であり、ジェルミラ家の現当主に
強要でき訳がなかった。ジェルラの気分は重たかった。

「親族である貴殿が伝えれば、
ジェイコブも多少は真摯に耳を傾けるだろう」
レドリアンは幾つかの指示を与えると、会議を解散した。

ジェルラの歩みは遅かった。
レドリアンの言わんとすることをジェイコブが
受け入れる訳がなかった。
そもそも従う気があれば、既に従っているはずであった。

幼少の時から残忍で酷薄なところはあったが、
臆病で小心者のジェイコブが王を僭称するような
大それたことをするとはジェルラは思ってもいなかった。

「彼奴めがアルフレートと接点を持つように
なってからおかしくなりおったわい」
供の者たちに延々と愚痴を零しながら
ジェイコブの居城に向かうジェルラであった。
無論の事、愚痴を零すだけであって、
何らジェルラを悩ますことの改善に寄与することはなかった。

 ジェルラはジェイコブの居城に到着すると
休む間もなくジェイコブに面会した。
しかしその様は、王に傅く臣下のごときであった。

頭上より豪奢に飾り立てられた椅子に
ふんぞり返ってジェイコブはジェルラを見下ろしていた。
左右には女を侍らせ、その後方に粗暴そうな武人と
無能そうな文官が立っていた。

「それで叔父上、本日は一体何のご用件で?
見ての通り俺は忙しいんでな」
下品な声を上げて笑っていた。
叔父というような近い血縁ではなかったが、
ジェイコブが親しみを込めて叔父と呼んだのだろうと
ジェルラは判断した。

ジェルラは頭を上げてジェイコブを見た。そして、察した。
久々に会った現当主ジェイコブ・ジェルミラは
以前の小心者ではないと。
一体、どういう心変わりかわからないが、
あのようにぎらついた目、
何もかもを噛み千切るような歯、なめくさった態度、
どれをとっても以前のジェイコブからは
感じられないものであった。

 ジェルラは雰囲気に圧倒されたが、
何とかレドリアンの伝言を言上した。
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