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749. 領土防衛戦18

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誠一はデュプレを見張らせていた傭兵から
彼に逃げられた報告を受けた。
何もかもが異常な状況で無理もない事であったが、
任務に失敗したことは確かであった。
誠一は叱責せざるを得なかった。
強く叱られることも無ければ、人を叱責したこともない誠一に
そんなことできずはずもなく、軽く注意を与えるに留めた。

暗い夜空を見上げながら誠一は嘆息した。
「まさかバッシュの手の者が紛れ込んでないよな。
奴の手の者が逃亡を手引きしたとかあり得ないか」

執拗に監視の目を送り込んでいたあの男のことだ。
手を変え品を変えて、巧妙に監視の目を
どこからか光らせているに違いないと誠一は認識していた。

誠一たちは、大大名の家老のような
出で立ちの剣豪に迎えられた。
そして、その後方には幽鬼のような雰囲気の傭兵たちが
ほっとしたような表情で左右に並んでいた。

「これはこれはアルフレート様、お早いお戻りで」
この上品な所作は剣豪が名家の出自であることの証明であった。
誠一にそう思わせる程に整っていた。

「先生ってマジで何処かの名族の出だろ。
どこだろな。俺の様な下級貴族でなく、
アルのような伝統ある高い爵位の名家の元御曹司とかじゃね」
ヴェルの感想に誠一は全面的に同意した。

「立ち話もなんですが、
歩きながら各方面の状況をご説明いたしましょう。
まず、マリアンヌ殿ですが、攻め込んできました敵対勢力を
殲滅いたしました。
敵将と副将の首を敵兵一名に持たせて解放したそうです。
村民の希望により殲滅後も駐留しております。
続いて、ロジェ殿とキャロリーヌ殿ですが、
各村を回りながら野盗や魔物を駆除しています。
村々の民は、アルフレート様、もといヴェルトゥール王国に
深く感謝しております。彼らは継続して巡回いたします」

誠一たちは黙って、剣豪の報告に耳を傾けた。

「それと王国から使者がご不在時にいらっしゃいました。
アルフレート様の城代として、
バリーシャ女王のお言葉を受け賜わりました。
王国から正規軍が派遣されます。
王国のバリーシャ女王は、この地の荒廃に心を痛めています。
アルフレート様のより一層の奮起に期待しているとのことです」

流石の誠一でもこの対応の素早さには驚いた。
あまりにも早すぎるために王国はかなりの情報を
掴んでいたのでは穿った見方を誠一はした。
ふと、誠一は剣豪と目が合った。剣豪がにっこりとした。
雰囲気が普段のだらしない剣豪になっていた。
どこから取り出したのか、酒瓶を口にした。

「ふううー肩が凝ったでござる。
しかしまあ、アルフレート様への女王のお言葉を
ぞんざいに扱う訳にもいかず、疲れましたな。
アルフレート様の想像の通りであります。
王国はこの地の惨状を把握していたのですが、
手が回っておりませんでした。
しかし、バリーシャ女王はそれを看過できぬ御仁。
そのために王国重臣を納得させるための派兵の理由を
作ろうとしていたのでござる」

誠一はにやりとした。そして言った。
「じゃあ、派兵されたのはあの二人だね」

「ご明察。ここにアルフレート様の下で戦場を
担うクランのメンバーが一堂に会します」

誠一は大きく両腕を広げて、息を吸った。
「そうか。噂にはよく聞くが、ファブリッツィオと
ラムデールが来るなら、一気呵成にジェミロの居城を
攻めてもいいかもしれない。
さっさとジェイロブの冒険譚を入手したいものだね」

「そのことでござる。それよりそろそろでござる。
神々の宴の気配を感じます。
ここは千晴様にエリクサーを所望してみては如何?」

剣豪の言うそれは、恐らく元の世界の
排出率アップイベントのことを指しているのだろう。
第六感の類であろうと思うが、如何なる仕様が剣豪に
運営より施されているのか少し興味が湧いた。

「そうだね、千晴さんにお願いしてみるのもいいかもしれない」
誠一は何の気なしに気軽に答えた。

雑談に花を咲かせていた面々が一瞬で凍り付いた。
著しい場の雰囲気の変化を誠一は察した。
しまっと思ったが、時、既に遅しであった。
ある者は誠一を仰ぎ見て、ある者はうすら寒い表情で、
ある者は胡散臭げに誠一を見つめていた。
しかし、誠一を見つめる全ての瞳に共通してあるのは、
誠一への畏敬であった。

 そんな雰囲気を全く気にせずに話を続ける剣豪。
ヴェル同様に場の雰囲気を読まない人としてクランの双璧を
なす男であった。
「それはようございますな。
是非ともその場に居合わせたいものでござる」

「はははっ。敬意と誠意をもってお願いしてみるよ」
そう言って誠一は祈る振りをした。
それに倣って、傭兵たちも祈り始めた。
その姿は、敬虔な千晴教の神官戦士のようであった。
 
 数日後、ファブリッツィオとラムデールが
十分な糧秣と物資と共に城に到着した。
彼らは住民や傭兵の盛大な歓声を以て受け入れられた。
ジェルミラ領の情勢は一気にヴェルトゥール王国側へ大きく傾いた。
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