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741.領土防衛戦10

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「天衣無縫。いや違うな。
伝説の鬼神の御業『無の境地』だよな。
アル、おまえはどこまでも俺の想像の上をいく。
発現させたのはすげーけどよ。
だが、その技には鬼神の如き強さが必要だろ」

 神話の時代、鬼神を倒さんと囲む千を越える戦士たちを
無表情のままばったばったと斬り捨てた話。
鬼は眉一つ動かさず、その瞳に何の感情もなく、
ただその眼に映るモノは、鬼の前に倒れていった。
まさにそれを彷彿とさせる誠一の表情であった。

両軍を挟んで誠一とヴェルが大立ち回りを演じていた。
華麗さの欠片もない力任せの誠一の打撃に対して、
長柄の真ん中を持ち、短槍の様に振り回してヴェルは
接近戦を挑んだ。

払い、受けては、突き、いなしては、振る。
幾度もヴェルと誠一の間でそれらが交わされた。
一切呼吸を表情を乱すことない誠一に比べて、
ヴェルは若干だが呼吸を乱していた。
誠一を傷つけずに一撃を加える。
細心の技の運びがヴェルの精神を著しく摩耗させていた。

「ちっ、本来の動きに程遠いアルに圧倒されるのかよ」
ヴェルは一旦、距離を取った。
それに引きつけられるように誠一はヴェルに向かって進んだ。

「ここだっ!決まれよ」
ハルバートの穂先と逆の柄の先端が突き出されると、
誠一の7面メイスはそれを受け流そうとした。
ハルバートはゆらゆらと揺れるように動き、
そのまま誠一の7面メイスを絡め躱して、
白い鎧の上から誠一の鳩あたりを突いた。
誠一の上半身が派手に揺れた。

「ぐっ、ヴェルか」

「お目覚めか、アル」

「ああ、最悪の寝起きだけどね。
すまない、助かったよ」

意識の混濁している誠一であったが、
うっすらと自分が何をしていたのを理解していた。

「まったくお前って奴は頭が良いのか
悪いのか分かんねえな。
まあでもあれだ、苦手なことや嫌なことから
逃げようとしないのはいいけど、
おまえは俺たちクランの象徴でありリーダーだ。
あんま無理して壊れんなよ。
お前自身が手を汚さなくても先生や
俺らがカバーしてやるからさ」

ヴェルが空に向かって、ファイアーの魔術を放った。
それに呼応するように竜の咆哮が大気を震わせた。

「まあ、お前の成長を見守るのも楽しいからいいけど、
ホントどうにもならないことは相談しろよ」

「なっ」

誠一は絶句した。

ヴェルの成長を見守っていたのは自分の方だと思っていた。
そのことをそっくりそのままヴェルに言われてしまった。
誠一はヴェルが自分に追いつきつつあることを肌で感じ取った。

「ふううっ始まりの洞窟で泣き叫んでいたヴェルとは
思えないセリフだよ」
誠一はちょっとしたお返しをヴェルにした。

「うっうるへー。いつまでも昔のことをいうんじゃねー。
それよりアル、殲滅するけどいいよな」

「ああ、頼む」

ヴェルがもう一度、ファイアーの魔術を空に放つと、
巨大な白き竜の影が敵兵を覆った。
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