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728. 初の戦略・戦術18
しおりを挟む「アルフレート君、本城には
ほとんど残っている者はいないだろうが、どうする?」
ロジェの問いに誠一は答えた。ここは戦場であった。
いつまでも目の前の異様な状況に固まっている訳にはいかなかった。
「本城を抑えて、ここを拠点としましょう」
誰も反対意見を言わなかったが、
全員が諸手を上げて受け入れるという訳にはいかなかった。
幾人かの傭兵たちが不安そうな表情で誠一を見ていた。
勝利はほぼ確定していた。だが、多少なりとも
先々のことに目端の利く者ほど、不安そうであった。
勝利を彩る天候としては、しとしと降る雨は
似つかわしくなかった。
派手に勝鬨を上げるべきだが、誰も上げなかった。
その雰囲気を察してか、ヴェルが灰色の雲に
覆われた薄暗い空を見上げた。
空を突くようにハルバートをヴェルが高々と掲げた。
それに呼応するかのように竜の咆哮が響き渡った。
それに続いて、ヴェルが吠えた。
「勝鬨を上げよ。
我らが大将アルフレート・フォン・エスターライヒと
我らが女神千晴様に勝鬨を捧げよ。我らが勝利を讃えよ」
60名に満たぬ小隊が得物を天に掲げて、勝鬨を上げた。
誠一はどうしていいか分からずに黙っていた。
そしてぼんやりとヴェルを眺めた。
ああいう奴が英雄とか勇者とか
呼ばれるようになるんだろうな。
俺には到底、無理だなと思っていた。
後数年もすれば、俺の立つ位置にヴェルが
立っているんだろう。
その時、自分はどこにいるんだろう。
ヴェルの様に振舞えるだろうか。
緩い雨が誠一を濡らした。
仲間の勝鬨が耳に入らずに何故か雨音だけが耳に届いた。
ぼんやりとしている誠一の右腕が叩かれた。
誠一は我に返った。隣には屈託のない笑みを零すヴェルがいた。
「アル、そろそろ止めてくれよ。喉が涸れそうだよ」
「えっあっ、うん」
「大将が何か言わないと終わらんからな。頼むよ、アル」
現実に引き戻された誠一は、左手を掲げた。場は静かになった。
「我らは勝利を得た。しかし、この勝利に奢らずなかれ。
古代より賢人は言う『勝って兜の緒を締めよ』と」
一旦、誠一は言葉を切って、全員を見渡した。
「体力は損耗し、気力は付きかけているかと思うが、
これより敗残の兵を討つ。武器を放って降伏する者は受け入れろ。
武器を持って抵抗する者、逃げる者は容赦なく倒せ。
略奪、暴行は固く禁じる。必ず皆の忠勤に報いる」
再び咆哮が冒険者や傭兵たちから上がると、
動き出した。
彼らの背中を見ながら、誠一はここに
残ったクランのメンバーに伝えた。
「僕らはここの本城を占拠する。
防衛には向かないけど、王国との国境は近い。
一長一短あるけど、まずはここで
虐げられた王国の民を救おう」
誠一は仰ぎ見るヴェルの視線に気づいた。
「ヴェル、どうしたの?」
「いやなんでもねえ。いやなんでもある。
おまえはやっぱり凄いよ。
将器があるってのは、お前みたい奴のことを言うんだな。
アル、多分だぞ、将来、英雄とか勇者とか
呼ばれるようになるんだろうな」
真面目に語るヴェルであったが、
誠一は我慢しきれずについつい、笑ってしまった。
全く真逆の事をお互いに考えていたからであった。
「ちぇっ、俺が真面目に話しているってのにお前って奴は!」
「ごめんごめん。全く真逆のことを考えていたからさ」
ヴェルは頭を捻った。
誠一の言ったことが良く分からなかったようであった。
「まっ気にしないで。それよりも行くよ」
誠一たちは本城に向かって歩き出した。
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