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708. 閲兵式4

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誠一は背中を軽く叩かれた。
振りむこうとした時、後ろから声をかけられた。

「アル、振り向かないで。何か言わないと」
声の主はシエンナだった。
言われなくとも誠一もその事は分かっていたが、
緊張で頭が真っ白になっていた。
そのため暗記してきた文章をすっかり忘れていた。

シエンナが続けた。
「アル、言った通りに大声で言上して」
「謹んで拝命いたします。続けて」

「謹んで拝命いたします」
声が上擦っているのを他人の事の様に誠一は感じた。

「アル、いい感じよ。
我が命に代えても任務を完遂いたします」

「我が命に代えても任務を完遂いたします」
上擦った声を抑えようとしたら、
今度は低く鈍い声になってしまった。
最早、誠一は諦めの境地に到達した。

「そうそうアル、抑揚があっていい感じ。
これより戦場に赴きます。主城にて吉報をお待ちください」

「これより戦場に赴きます。主城にて吉報をお待ちください」
上擦った声と低く鈍い声が混ざり合ったのか、
普段の誠一の声になっていた。
誠一はほっとして、脱力してしまった。
それに気づいたシエンナは慌ててしまった。

「ちょっ、まだよ。あと少し頑張って。
では行ってまいります」

「では行ってまいります」
誠一の気の抜けたような声が皆バルコニーに
居並ぶ王国の重鎮たちの耳に入った。

バルコニーの上に居並ぶ貴族たちは一様に眉を顰めた。
バリーシャは愉快そうに笑った。

「貴様は本当に面白いな。余り緊張し過ぎるのも良くないな。
だがそれほどに気を抜きすぎるのも問題だな。
そこら辺のさじ加減を違えるなよ」
バリーシャはバルコニーの手摺から離れて、
城内へ消えていった。
それを契機に貴族や将軍も城内に戻っていった。

「よしっ終わった終わった。アル、戻るか!」
ヴェルとロジェが反転し、城門をくぐった。
そのまま、首都の城壁の門を抜けるべく、
足を止めずに歩いた。
ヴェルの後に続くメンバーも無駄口を
叩かずに整然と進んだ。
市井の人々はその行進に安心、期待そして高揚を感じていた。
一時的とはいえ民衆はこの不安な世に安寧を感じた。

城壁を出ると、そこには幾台もの馬車が準備されていた。
「よーし、各員、騎乗。アミラ、もういいぞ。
スケードありがとよ。降りてこい」

巨大な竜が地に降りると、
その場所にアミラとスケードが立った。
「ふん、陳腐な演劇だったが、それなりに楽しめた」

「ヴェル―。凄くかっこよかったです」
ヴェルに駆け寄るアミラだった。
「おいこらこら、あまり引っ付くな。団員が見ているだろ」
幾つもの生暖かい視線がヴェルとアミラを包んだ。
そんなことはお構いなしのアミラであったが、
ヴェルはそうもいかなかった。

恥ずかしさを紛らわすためにヴェルは誠一に声をかけた。
「おーい、アル。先頭は俺とアミラでいいな」

ヴェルと対照的に沈んだ表情の誠一は軽く頷いた。
恥ずかしい目に遭ったのは二人とも同じであったが、
2人の表情は対照的であった。
空には雲一つなく青々としていた。
日は眩しく、誠一は右腕で陽を遮った。
日は眩しく、ヴェルは目を瞑り、大きく胸を逸らせて、
全身で陽を受けた。
どこまでも対照的な二人であった。
誠一はヴェルを盗み見た。何でおればっかりと
ヴェルに対して嫉妬の感情が生まれた。

「何時まで経ってもダサいな俺は」
先頭を走り出したヴェルアミラに視線を送りながら、
誠一は生まれた暗い感情を上手く処理するように努めた。

隣に座るキャロリーヌは誠一の横顔を
眺めながらため息をついた。
「アル、そんな顔しない。顔が良い分、余計に目立つわよ。
もう誰も気にしていないって」

「そう言ってもアレは流石に自分でも情けないと思うよ」

「何事も経験・経験。あんなの慣れれば何てことないって。
そのうち今日の件も笑い話で語れるときが来るわよ」

誠一は閲兵式を終えてから始めて笑った。

「それもそうだね。いつか笑って話せるときが来るといいな」

誠一たちは旧ジェイコブ領に向かう旅路についた。
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