717 / 888
707. 閲兵式3
しおりを挟む
「アルフレート、君は随分と自己評価が低いと見える。
眉目秀麗、君ほどに容姿に優れた者の前で
派手に傾いても惨めな道化にしかなりえないからな」
「マリ、その言葉をそっくりそのままあなたに返しますよ」
誠一は緊張の面持ちを崩さずに答えた。
目の前にはもう主城の正門がはっきりと見えていた。
誠一はバリーシャに捧げる言上を忘れまいと
再びぶつぶつと何度も復唱し始めた。
先頭のロジェとヴェルが止まった。
正門は閉じたままで衛兵が数名並んでいた。
「冒険者よ、如何なる用か?」
「アルフレート・フォン・エスターライヒが
主宰するクランが旧ジェイコブ領の騒乱を収めんと出征する。
その報告に参った。門を開けよ」
ヴェルナー・エンゲルスが大音声で言上した。
凛とした声は聞く者を魅了した。
衛兵は開門の指示を出して、門の両脇に並んで敬礼をした。
誠一は一連の芝居かかった流れに
苦笑しそうであったが、必死に我慢した。
剣豪は笑っているだろうと思い、盗み見たが、
思いのほか謹厳な表情を保っていた。
誠一も慌てて佇まいを正し、真面目な表情を
保つように努めた。
ロジェとヴェルは正門を通り過ぎて、
主城のバルコニーの前で停止した。
ロジェが右手に持つツヴァイヘンダーを
大空に掲げて、停止の合図を送った。
バルコニーの上から誠一たちを眺めていたバリーシャは
感嘆の声を上げた。
「ほう、見事な統率力だ。
荒くれ者たちをしっかりと統率しているな」
「僭越ながら申し上げます。
S級の冒険者鬼谷、マリアンヌあってこそのことでございます。
それに聞くところによると冒険者や傭兵も
随分と大人しい者どもを選別したようです」
バリーシャの側に立つ宰相が耳打ちした。
「その二人をクランに引き入れ、
上空を舞う巨大な竜すら仲間にしている。
それは紛れもなくアルフレートの能力の一端であろう。
宰相、貴様にそれができるか」
耳障りな言葉が今後入って来ない様に
周囲へ聞こえるような声でバリーシャが話した。
宰相は反論することなくうやうやしく一礼をして、
肯定した。
「御意」
「まあ宰相の言いたいことも分からんでもない。
結果はおのずと分かるであろう。
あの荒れ果てた地をどう料理するか見ものだな」
否定するだけでなく宰相の意見にも見るべきものがあると
匂わせたバリーシャであった。
全ての言葉が為政者にとって、政治だということ
バリーシャは感覚で理解していた。
ヴェルトール王国の全軍を統率する侯爵家の
ドルレアン・ストラッツェールがバリーシャの前に跪いた。
「女王、これより出征する軍へお言葉を頂けますでしょうか」
バリーシャは鷹揚に頷くと、バルコニーの手摺に両手をつけた。
周囲の者たちが慌てて、それを止めようとしたが、時すでに遅かった。
バリーシャはバルコニーより上半身を乗り出して話し出した。
「壮観だな。アルフレートよ、貴様に命じる。
旧ジェイコブ領の混乱を収めよ」
今度は誠一がバリーシャの言葉に返す番であった。
しかし、誠一は何も話し出さない。
少し間が長くなると、バルコニーの上に並ぶ者たちがざわつき始めた。
眉目秀麗、君ほどに容姿に優れた者の前で
派手に傾いても惨めな道化にしかなりえないからな」
「マリ、その言葉をそっくりそのままあなたに返しますよ」
誠一は緊張の面持ちを崩さずに答えた。
目の前にはもう主城の正門がはっきりと見えていた。
誠一はバリーシャに捧げる言上を忘れまいと
再びぶつぶつと何度も復唱し始めた。
先頭のロジェとヴェルが止まった。
正門は閉じたままで衛兵が数名並んでいた。
「冒険者よ、如何なる用か?」
「アルフレート・フォン・エスターライヒが
主宰するクランが旧ジェイコブ領の騒乱を収めんと出征する。
その報告に参った。門を開けよ」
ヴェルナー・エンゲルスが大音声で言上した。
凛とした声は聞く者を魅了した。
衛兵は開門の指示を出して、門の両脇に並んで敬礼をした。
誠一は一連の芝居かかった流れに
苦笑しそうであったが、必死に我慢した。
剣豪は笑っているだろうと思い、盗み見たが、
思いのほか謹厳な表情を保っていた。
誠一も慌てて佇まいを正し、真面目な表情を
保つように努めた。
ロジェとヴェルは正門を通り過ぎて、
主城のバルコニーの前で停止した。
ロジェが右手に持つツヴァイヘンダーを
大空に掲げて、停止の合図を送った。
バルコニーの上から誠一たちを眺めていたバリーシャは
感嘆の声を上げた。
「ほう、見事な統率力だ。
荒くれ者たちをしっかりと統率しているな」
「僭越ながら申し上げます。
S級の冒険者鬼谷、マリアンヌあってこそのことでございます。
それに聞くところによると冒険者や傭兵も
随分と大人しい者どもを選別したようです」
バリーシャの側に立つ宰相が耳打ちした。
「その二人をクランに引き入れ、
上空を舞う巨大な竜すら仲間にしている。
それは紛れもなくアルフレートの能力の一端であろう。
宰相、貴様にそれができるか」
耳障りな言葉が今後入って来ない様に
周囲へ聞こえるような声でバリーシャが話した。
宰相は反論することなくうやうやしく一礼をして、
肯定した。
「御意」
「まあ宰相の言いたいことも分からんでもない。
結果はおのずと分かるであろう。
あの荒れ果てた地をどう料理するか見ものだな」
否定するだけでなく宰相の意見にも見るべきものがあると
匂わせたバリーシャであった。
全ての言葉が為政者にとって、政治だということ
バリーシャは感覚で理解していた。
ヴェルトール王国の全軍を統率する侯爵家の
ドルレアン・ストラッツェールがバリーシャの前に跪いた。
「女王、これより出征する軍へお言葉を頂けますでしょうか」
バリーシャは鷹揚に頷くと、バルコニーの手摺に両手をつけた。
周囲の者たちが慌てて、それを止めようとしたが、時すでに遅かった。
バリーシャはバルコニーより上半身を乗り出して話し出した。
「壮観だな。アルフレートよ、貴様に命じる。
旧ジェイコブ領の混乱を収めよ」
今度は誠一がバリーシャの言葉に返す番であった。
しかし、誠一は何も話し出さない。
少し間が長くなると、バルコニーの上に並ぶ者たちがざわつき始めた。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣
ゆうた
ファンタジー
起きると、そこは森の中。パニックになって、
周りを見渡すと暗くてなんも見えない。
特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。
誰か助けて。
遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。
これって、やばいんじゃない。
最強超人は異世界にてスマホを使う
萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。
そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた――
「……いや草」
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる