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「踊れ、風の刃!エアスライサー」

連続して繰り出される魔術は
ことごとくエヴァニアに傷を与えることはなかった。
風の刃は剣の一太刀をいなすように
エヴァニアの両腕・両脚によって軌道を変えられていた。

「眼前の全てを突貫せよ、風の槍。エアジャベリン」
風の刃に混じって、現在の誠一の最大攻撃魔術が
エヴァニアの心臓に向かって放たれた。

十分にエヴァニアの意識を風の槍から逸らしたつもりだった。
だが、眼前に展開される光景に誠一は目を疑った。

「なっ」

エヴァニアの右腕が槍を掴んでいた。

めきょめきょと風の槍から異様な音が鳴った。
そして砕けた。

「終わりかい。ならば終わりとしようかね。
その力、欲望のままに振るわれては、民はかなわない」

右拳の初撃は何とか防げた。
しかし、次の右脚、右腕、左腕、左脚から
繰り出されたエヴァニアの攻撃を
誠一は捌ききれなかった。
誠一は吹っ飛び、地に臥した。
エヴァニアは近づくと、容赦なく誠一の左腕を踏みつけた。

嫌な音がした。

「ぐああああ」

誠一は転がって、エヴァニアから逃れようとしたが、
胸を踏みつけられており、動けなかった。
ミシミシと軋む様な音、誠一の胸から聞こえた。
肋骨が折れて、心臓が潰される。
そう感じた誠一は右手に握るメイスを闇雲に振るった。
エヴァニアがメイスの一撃を躱そうと足を上げた瞬間、
誠一は跳ね上がった。
絶望しかなかった。古代竜の一角である氷竜との戦いですら、
ここまでの絶望感はなかった。
メイスを構えているが、どうしようもないことを
誠一は肌で感じ、脳で理解していた。
死を忌避する本能の訴えが、誠一の全身を震わせ、
発汗させていた。エヴァニアが一歩一歩、近づいて来た。

その歩みが一歩、進むごとに誠一は、死への恐怖が増大した。

裏切りの代償というには高くつきすぎた。
だが剣豪の予言した通りの結末になってしまった。

かつてこの地で剣豪に指摘された言葉が
誠一の脳裏によぎった。

『永遠に触れられぬ恋人に思いを寄せながら、
現実には、キャロリーヌやシエンナで
己の性欲を満たしているではないですか』

違う。俺は彼女を愛している。
だが、確かに俺は彼女たちも愛している。
だから抱いた。

『もはや助ける術が自分にはなく、
彼女が死にゆく人形であると』

違う。俺はリシェーヌを救うと誓った。
悲劇の主人公を演じている訳ではない。

『死人や人形に興奮する異常性欲でもない限り、
欲情しないでしょう』

違う。俺は彼女を抱きたい。
愛しているが故に抱きたい。

『もし、そうでないならば、
ここで証明して見せて頂きましょう』

違う。俺は性欲を満たしたいんじゃない。
ただただ彼女に触れたい。

いつの間にか身体の震えは止まり、発汗が止んでいた。
しかし身体中が火照り、脳が焼き付くように熱かった。

誠一は周囲に目を向けた。
何故かエヴァニアの歩みが止まっていた。
剣豪がげらげらと爆笑していた。
ファウスティノが目を見開いて、自分を凝視していた。
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