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693. 王都再び1

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ソルテールから王都への旅は誠一たちにとって
慣れたものであり、別段、目新しい発見や経験はなかった。
マリアンヌは、一時、途中で誠一たちから離れて、
かつての仲間の墓を詣でた。
感情の読み取りにくいスケードは、落ち着きなく
街々できょろきょろしているのが印象的であった。
そんな程度のことがちょっとした出来事として、
感じられる程に平穏な旅路であった。
 
「これが王都か」
王都を見上げて、1人、詠嘆する男、否、竜がいた。
そして、その前に立ちはだかる二人の人物がいた。

「なかなか壮大な建造物だな。
だがそれより気になるのは目の前の二人だ。
アミラ、こいつらは血祭りに上げてもいいのか」

スケードがじろりと二人を威嚇した。
しかし二人の態度はどこ吹く風のようであった。

「アルフレート・フォン・エスターライヒ。
あなたは、いつ何時、どこへいても騒ぎの中心にいないと
我慢ならない質なのですか?」

「エヴァニア、そういきり立つでない。
彼の話を聞かねば、わからぬであろう。
アルフレート君、話してくれるな。
強大な力を隠そうともせずに王都に
入城しようとしているその初老の男について」

エヴァニアが眉間に皺を寄せて、
ファウスティノを睨みつけた。
「それだけではないでしょう。
ファウスティノ、あなたは、少し生徒に甘すぎるようですね」
ファウスティノは一息つくと更に付け加えた。
「『神剣の担い手』莉々殿が同行している理由も
説明して貰うかのう。
自治を認められているとはいえ、
クラン『赤薔薇の園』がその領地を
実効支配している現在、看過できでのう。
そろそろ、ヴェルトール王国のバリーシャ女王が
現れるでな。早めに頼めぬかのう」

誠一が城門の方へ目を向けると、
ヴェルとは違った色の炎が青空を
焦がさんばかりに燃え上がっているのが見えた。
次にスケードの方へ目を向けると、
やる気満々に歯を剥き出しにしていた。

「学院長、詳細を話せば長くなります。
しかし時間があまりなさそうです。
莉々、今はマリアンヌという本名で
僕らのクランに参加しています。
『赤薔薇の園』から事実上、撤退しています。
こちらの初老の方は、霊峰氷山の古代氷竜ですが、
訳あって、アミラの騎竜として同行しています」

ファウスティノとエヴァニアは納得した様であった。

「スケード殿、あの二人とやり合うことは控えなされ。
万の軍を揃えて、あの二人の体力、魔力、気力を
損耗させるならば、勝ち筋があるでござる。
しかし、一対一では、神の力をもってしても危うい」
めずらしく剣豪が仲裁に入った。
そして、スケードも怒り狂うことなく、それを受け入れた。

「ふん、俺は戦闘狂ではない。
好んで殺し合いなどする狂人どもと同列に語るな。
降り掛かる火の粉を払うだけだ」

「そうですか、それは助かります。
あまりに強大な力だったので、上位魔人か何かと思い、
様子を見に出て来ただけなので。
アルフレート、そろそろ到着するアレは
自分で何とかしなさい。では、私たちは戻りましょう」

ファウスティノは燃え上がる炎を一瞬見ると、
気づかわし気に誠一の方を見た。

「ファウスティノ、早く王都へ戻るための
転移の魔術を展開しなさい」
誠一に対して若干、不快な視線を送るエヴァニアは、
ファウスティノを急き立たてた。
ファウスティノは、仕方なしに魔術を展開して、
この場を去った。
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