678 / 830
668.氷竜13
しおりを挟む
アミラの目は竜尾が僅かに早く、
ヴェルの技が発動するより彼を捉えることを見定めた。
アルフレート・フォン・エスターライヒのように
強力な防具を身に付けていないヴェルが
その攻撃をまともに受ければ即死することは
火を見るよりも明らかであった。
アミラの心と身体にヴェルを失う恐怖が襲った。
そして、全身の隅々までそれを『嫌だ』と拒否した。
しかし、今のアミラにはヴェルを護る術はなかった。
スローモーションのように竜尾がヴェルに
近づくのを見送るしかなかった。
『ヴェルを助ける。ヴェルを助ける。ヴェルを助ける。彼を失わない』
この刹那の刻に一体、何度、全身隅々までこのことを
訴えただろうか、アミラには全く分からなかった。
自然、彼女の身体が動いた。
少しでも攻撃の衝撃を和らげようとして、
ヴェルと竜尾の間に割って入った。
「がああっ」
アミラは何かを言ったつもりだったが、
それは言葉にならない叫び声だった。
表現するならば、氷竜の咆哮に近かった。
アミラは身体中に破裂しそうなほどの力の解放を感じた。
竜の尾を受け止めても微動だにしなかった。
『ヴェル、今です。思い切って、放って』
アミラは思いの丈を叫んだが、言葉にならかった。
先ほどと同じような叫びが響いただけだった。
「がああっあー」
ヴェルは竜尾にハルバートの穂先を突き刺した。
ハルバートの穂先は爆発して、竜の鱗と肉を弾き飛ばした。
氷竜は嗜虐的な目でヴェルとアミラを見下ろした。
『竜を模した出来損ないがそこまでの力を持つとは。
だがその姿、人の世で生きていけるのか。
そして身を挺して貴様が守った男がその姿を
受け入れられるか見ものだな。良き良き余興だ』
『貴様には関係ない。ヴェルが生きていれば、それでいい』
アミラは身体の変化に気づいていた。
そして、何よりヴェルの無事な姿を見て、
ホッと心を撫でおろした。
そして、決してあの姿を忘れぬように
心へ焼き付ける様に食い入るように見つめた。
「アミラ」
ヴェルが振り返ろうとした瞬間、
アミラは極度に飛躍した身体能力を駆使して、
竜の背を一気に駆け上がった。
駆け上がるアミラの姿をヴェルの遠見の目が捉えていた。
その姿は父カスペール・グロウと同じ姿であった。
竜の顔、竜の腕、竜の足、肌は竜鱗に覆われていた。
グロウ以上にアミラは、竜に近し姿となっていた。
「馬鹿野郎、お前、俺の眼の良さをしっているだろ。
お前が俺からどんなに離れていようとも
どこにいようともアミラ、お前の姿は俺の瞳に映るだろ。
俺の瞳はお前を捉えて離さないだろ」
ヴェルは絶叫した。
ヴェルの背中にはその叫びに呼応したかのように
蒼白い炎が広がった。
それは、まるで大きな二つの羽根の如くゆらゆらと
揺れていた。
ヴェルの技が発動するより彼を捉えることを見定めた。
アルフレート・フォン・エスターライヒのように
強力な防具を身に付けていないヴェルが
その攻撃をまともに受ければ即死することは
火を見るよりも明らかであった。
アミラの心と身体にヴェルを失う恐怖が襲った。
そして、全身の隅々までそれを『嫌だ』と拒否した。
しかし、今のアミラにはヴェルを護る術はなかった。
スローモーションのように竜尾がヴェルに
近づくのを見送るしかなかった。
『ヴェルを助ける。ヴェルを助ける。ヴェルを助ける。彼を失わない』
この刹那の刻に一体、何度、全身隅々までこのことを
訴えただろうか、アミラには全く分からなかった。
自然、彼女の身体が動いた。
少しでも攻撃の衝撃を和らげようとして、
ヴェルと竜尾の間に割って入った。
「がああっ」
アミラは何かを言ったつもりだったが、
それは言葉にならない叫び声だった。
表現するならば、氷竜の咆哮に近かった。
アミラは身体中に破裂しそうなほどの力の解放を感じた。
竜の尾を受け止めても微動だにしなかった。
『ヴェル、今です。思い切って、放って』
アミラは思いの丈を叫んだが、言葉にならかった。
先ほどと同じような叫びが響いただけだった。
「がああっあー」
ヴェルは竜尾にハルバートの穂先を突き刺した。
ハルバートの穂先は爆発して、竜の鱗と肉を弾き飛ばした。
氷竜は嗜虐的な目でヴェルとアミラを見下ろした。
『竜を模した出来損ないがそこまでの力を持つとは。
だがその姿、人の世で生きていけるのか。
そして身を挺して貴様が守った男がその姿を
受け入れられるか見ものだな。良き良き余興だ』
『貴様には関係ない。ヴェルが生きていれば、それでいい』
アミラは身体の変化に気づいていた。
そして、何よりヴェルの無事な姿を見て、
ホッと心を撫でおろした。
そして、決してあの姿を忘れぬように
心へ焼き付ける様に食い入るように見つめた。
「アミラ」
ヴェルが振り返ろうとした瞬間、
アミラは極度に飛躍した身体能力を駆使して、
竜の背を一気に駆け上がった。
駆け上がるアミラの姿をヴェルの遠見の目が捉えていた。
その姿は父カスペール・グロウと同じ姿であった。
竜の顔、竜の腕、竜の足、肌は竜鱗に覆われていた。
グロウ以上にアミラは、竜に近し姿となっていた。
「馬鹿野郎、お前、俺の眼の良さをしっているだろ。
お前が俺からどんなに離れていようとも
どこにいようともアミラ、お前の姿は俺の瞳に映るだろ。
俺の瞳はお前を捉えて離さないだろ」
ヴェルは絶叫した。
ヴェルの背中にはその叫びに呼応したかのように
蒼白い炎が広がった。
それは、まるで大きな二つの羽根の如くゆらゆらと
揺れていた。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。
ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。
全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。
もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。
貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。
思いつきで適当に書いてます。
不定期更新です。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる