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661.氷竜6
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「アルフレート・フォン・エスターライヒか。
なあ剣豪殿、あの男では、クランを率いるリーダーとしては
いささか頼りないのではないかな。
見た所、自分に甘過ぎるし、
どうも困難から逃げようとする性ではないかな」
マリアンヌが戻ってくる誠一とシエンナの二人を見つめていた。
「ふむ、確かに。
どうも逃げ癖はあるようで、困ったことでござる。
しかし、仲間の助けを借りて最後には
逃げずに立ち向かっている。
そう巷で吟遊詩人に謳われる彼の英雄譚に
脚色はあれど、嘘はないでござる」
カラカラと笑う剣豪であった。二人の表情は対象的であった。
「それもそうか、まだ16歳という年齢を
考えれば当たり前か。
その歳で氷竜に挑もうとするような奴自体が
稀だろうしな。剣豪殿、忘れてくれ」
準備の完了していたメンバーを前に
誠一は氷竜の住処へここから徒歩で向かうことを伝えた。
「よしっ!俺が先頭で向かう。アル、いいだろ」
ヴェルは誠一の左頬の腫れには一切、触れずに勢いよく言った。
「ならその隣は私です」
アミラもヴェルに続いた。
アミラもこのパーティのノリと勢いに
程よく染まっているようだった。
「そうだね、頼むよ。
その後方をシエンナとサリナで周囲を探索しながら、進もう。
ロジェさんは二人の護衛で。先生とマリはその後に続いて。
最後尾は僕とキャロで警戒しながら進む」
その時、何とも形容し難い凄まじい咆哮が
誠一たちの耳元に届いた。
経験の浅い冒険者であれば、その咆哮で
恐怖に囚われて、その場にへたり込んだであろう。
だが、誠一たち一行には誰一人、そのような醜態を
晒す者はいなかった。
「おう、やる気満々だな。アミラ、行くか」
何も答えずにアミラがヴェルの前に出て、素早く唇を重ねた。
「なっ、一体」
「あの二人を羨ましそうに見すぎてたです」
立ち尽くすヴェルの腕を引き、真っ赤な顔でヴェルに
進むように促すアミラだった。
「くっアミラ。戦い前に心が乱れただろ。
絶対に死ぬ訳にいかないな。今のはノーカウントだからな。
くそっ始めては俺からじゃないと、漢として」
ブツブツと言いながら歩くヴェルであった。
アミラ同様に真っ赤な顔であった。
最後尾を進む誠一とキャロリーヌも
それは全く同様であった。
誠一の左頬をみて、何も気づかない程、
鈍感なキャロリーヌではなかった。
「まったくシエンナにいいとこ取りばかりされてるね」
「いやいや、キャロリーヌには凄く助けられているって」
「じゃあ、少し報酬を貰うわ」
そう言って軽く唇を重ねるキャロリーヌだった。
見えていない筈のシエンナのフードがそれを
察知したように揺れたような気がした。
誠一は気のせいと思い、頸を振った。
「キャロ、少しは緊張して。じゃなく、集中して。
相手は何千年も生きたであろう氷竜だかさ」
「ええ、ここから集中するわ。
少しは良いとこみせないと、アルに軽蔑されるしね」
巨大な体躯の氷竜は悠然と構えていた。
小細工を弄するでもなく、眼下で武器を構える誠一たちを一瞥した。
なあ剣豪殿、あの男では、クランを率いるリーダーとしては
いささか頼りないのではないかな。
見た所、自分に甘過ぎるし、
どうも困難から逃げようとする性ではないかな」
マリアンヌが戻ってくる誠一とシエンナの二人を見つめていた。
「ふむ、確かに。
どうも逃げ癖はあるようで、困ったことでござる。
しかし、仲間の助けを借りて最後には
逃げずに立ち向かっている。
そう巷で吟遊詩人に謳われる彼の英雄譚に
脚色はあれど、嘘はないでござる」
カラカラと笑う剣豪であった。二人の表情は対象的であった。
「それもそうか、まだ16歳という年齢を
考えれば当たり前か。
その歳で氷竜に挑もうとするような奴自体が
稀だろうしな。剣豪殿、忘れてくれ」
準備の完了していたメンバーを前に
誠一は氷竜の住処へここから徒歩で向かうことを伝えた。
「よしっ!俺が先頭で向かう。アル、いいだろ」
ヴェルは誠一の左頬の腫れには一切、触れずに勢いよく言った。
「ならその隣は私です」
アミラもヴェルに続いた。
アミラもこのパーティのノリと勢いに
程よく染まっているようだった。
「そうだね、頼むよ。
その後方をシエンナとサリナで周囲を探索しながら、進もう。
ロジェさんは二人の護衛で。先生とマリはその後に続いて。
最後尾は僕とキャロで警戒しながら進む」
その時、何とも形容し難い凄まじい咆哮が
誠一たちの耳元に届いた。
経験の浅い冒険者であれば、その咆哮で
恐怖に囚われて、その場にへたり込んだであろう。
だが、誠一たち一行には誰一人、そのような醜態を
晒す者はいなかった。
「おう、やる気満々だな。アミラ、行くか」
何も答えずにアミラがヴェルの前に出て、素早く唇を重ねた。
「なっ、一体」
「あの二人を羨ましそうに見すぎてたです」
立ち尽くすヴェルの腕を引き、真っ赤な顔でヴェルに
進むように促すアミラだった。
「くっアミラ。戦い前に心が乱れただろ。
絶対に死ぬ訳にいかないな。今のはノーカウントだからな。
くそっ始めては俺からじゃないと、漢として」
ブツブツと言いながら歩くヴェルであった。
アミラ同様に真っ赤な顔であった。
最後尾を進む誠一とキャロリーヌも
それは全く同様であった。
誠一の左頬をみて、何も気づかない程、
鈍感なキャロリーヌではなかった。
「まったくシエンナにいいとこ取りばかりされてるね」
「いやいや、キャロリーヌには凄く助けられているって」
「じゃあ、少し報酬を貰うわ」
そう言って軽く唇を重ねるキャロリーヌだった。
見えていない筈のシエンナのフードがそれを
察知したように揺れたような気がした。
誠一は気のせいと思い、頸を振った。
「キャロ、少しは緊張して。じゃなく、集中して。
相手は何千年も生きたであろう氷竜だかさ」
「ええ、ここから集中するわ。
少しは良いとこみせないと、アルに軽蔑されるしね」
巨大な体躯の氷竜は悠然と構えていた。
小細工を弄するでもなく、眼下で武器を構える誠一たちを一瞥した。
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