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622. 閑話 とある夜の会社の情景4

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 千晴は封筒を開けた。そして請求書と思わしきものを取り出した。
取り出したモノが目に映ると彼女は手に取ったソレを
デスクの上や床に落としてしまった。

「ちょっ、これなによ」

千晴の絞り出された声は震えていた。
散らばるモノは、千晴を写した写真だった。
会社の更衣室の着替え中、マンションでの下着姿、
ある日の休日、清涼が同行した大学や居酒屋、
無数の無防備な千晴の姿がそこには写っていた。

 千晴は震えながら、写真をかき集めた。
気持ち悪かったが、このままにする訳にもいかずに
のろのろと作業を開始した。

がちゃり。ドアの開く音がした。

「そんなに自分の写真が大切なのかな、佐藤さん」

聞き覚えのあるぬめりとして、絡みつくような声色。
千晴はびくりと身体を大きく震わせながら、
振り返ると、そこには予想通りの男、島崎が立っていた。
島崎は千晴の全身をねめつけるように見ながら、近づいた。

「そんなに大切そうにかき集めるとは。
余程、自己愛が強いんだな、君は」

島崎はジャケットのポケットから千晴の写った写真を取り出した。
そして何十枚もの写真をそこら中に振り撒いた。

「ははっはははぁ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。
まだ、俺もここの社員で君だけの直属の上司だよ。
どれ、困っているようだし、手伝おう」

千晴は、手に取った写真を放り出した。
この部屋から逃げ出そうとして、即座に駆け出した。

「おいおい、上司にあいさつもなしに帰社しようとは。
少し教育が必要だな」
島崎は黄色い歯をむき出しにして、笑った。

千晴は島崎から強烈なタックルを受けて、床に転がった。

「きゃっ」

「はああっ、おまえ、本当に男好きする女だな」

島崎は千晴の両手を片手で掴むと、
力任せに引き上げて、立ち上がらせた。

「おまえがふざけたまねをするから、
俺の人生、めちゃくだ。謝れよ、なあ、謝れよ」

島崎は空いている手で千晴の頬を叩いた。
叩いその手で島崎は千晴の胸を乱暴に揉んだ。

千晴はこれから起こり得る最悪の状況に絶望した。
更に島崎の単純な暴力が千晴の恐怖に拍車をかけた。

「すみませんは?」
島崎は千晴の両頬を叩いた。
千晴は恐怖でまともな思考が働かなくなっていた。

「すみません」

「おい、違うだろ。謝って済む問題じゃないだろがよう」
島崎が声を荒げた。千晴は首を締上げられた。

島崎が顔を千晴の耳元に近づけて囁いた。
「言え。すみません、何でも言う事を聞きます。許してくださいとな」
島崎の首の締め付けが少しだけ緩められた。

「けほけほ、すみません。
けほ、何でも言う事を聞きます。
げほ、許してください」
千晴の表情は苦しげだった。

「そうか、それなら、これからの行為は
両者の合意ということだな」
島崎は満面の笑みを千晴に向けた。
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