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604.鍛冶師7

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「神の目論見が何だったのかは、私では知り得ないです。
神は鍛冶場が軌道に乗った辺りから分業をやめる様に
啓示が下されました。勿論、師匠は拒否しました。
丁度、ヴェルトール王国の情勢がきな臭くなってきてましたし、
それで当時は、金が稼げるから、その分自分の理想の鍛冶に
没頭できると考えていた節があります」
ラッセルは歩きながら空を見上げた。

誠一たちはラッセルの話の続きを待った。

「お金を握ると変わる人もいるということですかね。
見たこともない金を手にして、酒、女、賭け事、
それに芸術にのめり込んでしまいました。
神は師匠に啓示を下せませんし、
師匠の元を離れる様に啓示が下されました」

 あの悪趣味な建物、服装を誠一は思い出していた。
あまりヨークには美的センスがありそうには思えなかった。

「なあアル、あの前衛的な建物と服装、
ヨークさんのセンスなんかな?
この短剣は結構、いい出来だと思うけどな」

ラッセルが懐かしそうな目をして、短剣を見つめた。
「ああその短剣ですか。
それはドワーフ族に培われた伝統と
長命のあるドワーフの長きに渡る研鑽が
生み出したものです。
到底、我々、人が創り出せるものではありません。
素晴らしいものなのですが、師匠には古臭く感じられたのでしょう。
天才の閃きで創り出される作品に心を囚われしまったんですよ」

そんな話をしながら、歩みを進めて暫くすると、
どうやらラッセルの工房に到着した様だった。
以前のヨークの工房を更にぼろくしたような家であった。
無論、鋼を鍛える音はしていなかった。
代わりに赤子の泣き声が響き渡っていた。

「ただいま」

「遅いぞ、ラッセル。商会の用事にいつまでかかっているんだ!
おまえじゃないと全然、泣き止まないんだぞ」
勝気そうな声が赤子の泣き声に混じって聞えて来た。

「はははっ、ごめんよ。
古い友人に会ったのもので、ついつい話が弾んでしまって。
ってこれは単におしっこだよ。
カーリー、悪いけど、おむつを替えてあげて」

勝気そうな声は、素っ頓狂な声に変った。
「なっそうなのか、すまんすまん。
おまえがいないから、泣いているとの勘違いだ」

誠一とヴェルは眼前の二人のやり取りをポカンと見ていた。
そんな二人にラッセルが声をかけた。

「おや、2人ともどうしましたか?」

「いやいやいや、まず最初に嫁を迎えたなら、言ってよ」
誠一とヴェルの声が見事なほどにシンクロした。

カーリーはラッセル越しに誠一たちの姿を確認すると、
途端に居住まいを正した。
「これはこれは初めまして、ラッセルの妻、カーリーといいます。
狭い工房ですが、どうぞごゆっくりしてください」

カーリーの変わりっぷりに誠一とヴェルは
再びポカンとしてしまった。ラッセルは苦笑した。
「カーリー手遅れだって。みなさん、紹介が遅れました。
妻のカーリーと娘のラミです」

誠一たちも名を名乗ろうとすると、
カーリーが慌てて泣き止まない娘を連れて
工房の奥へ引っ込んだ。
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