上 下
584 / 830

576.狩猟祭1

しおりを挟む
誠一たちは、ソルテールに向かって馬車で移動していた。
ロジェと誠一が馬に乗り先行し、サリナとキャロリーヌが
馬車の後方を馬に乗って、走った。

 馬車を御するのは、ヴェルでその隣にちょこんと
アミラが座っていた。
剣豪は荷車ですやすやと寝息を立てていた。
シエンナは荷車で霊峰氷山に関する書物を読んでいた。

 誠一の耳にヴェルとアミラの会話が時節、耳に入って来た。
「前回の旅では、大蜂の巣を落としたり、
俺がフレイムチャージの技を閃いたりと色々とあったな」
誠一は後ろを振り向かずともアミラがキラキラした目で
ヴェルの話に耳を傾けていることが容易に想像できた。
そして、その後に続く突っ込みというより厳しい指摘が飛ぶことも。

「あの技をこの旅路で閃いたですか!
ヴェルが14歳の頃です。凄いです」

ヴェルは鼻息荒く、意気揚々にその時のことを話していた。
アミラが興奮気味に合いの手をいれていた。
盛り上がる二人に冷や水をかけるような冷たい声が
荷車から聞こえてきた。
「誠一君、気のせいか少し気温が下がったかな」
誠一の隣で身体を少し震わせたロジェだった。

「ヴェル、盛り上がっているところ悪いけど、
その話、少し訂正させて貰うわよ。
それとアミラ、ヴェルの言うことだってことで
無条件に受け入れない」

アミラが不満気に口をとがらせた。
「こんなことでヴェルが嘘を言ってなんの得があるですか?」

「それはもちろんあるわよ。あなたの気を、もがもが」
ヴェルが突然、手綱をアミラに預けた。
そして、荷車に移ると、シエンナの口を塞いだ。

「はははっ、そうそうアミラ。
フレイムチャージは俺とアルが旅の休憩中に
始めて放ったんだよ。
そしたらさ、おまえは会ったことがないけど、
リシェーヌが俺の技に駄目出ししまくって、
フレイムランサーを放ったんだ。あいつは天才だよ」

アミラはキョトンとしていたが、
目がシエンナとヴェルを睨みつけていた。
彼女の握る手綱がめきょめきょと悲鳴をあげている様に
潰れていた。
そして、それが二頭の馬にも伝わったのか、一声、嘶いた。

「そんな話はどうでもいいです。
それよりヴェル、何時までシエンナを抱きしめているです」

アミラの舌がシュルシュルと音を鳴らしていた。
瞳孔がすっーと細くなりヴェルとシエンナを捉えていた。

不穏な雰囲気と無視できぬ話が聞えた誠一は
後ろを振り向いた。
ヴェルはシエンナの側にピタリと座って
口を塞いでいたただけであった。
口から手を離したヴェルとシエンナが顔を見合わせていた。

誠一は少し笑ってしまった。ヴェルは苦労しそうだな。
一瞬、振り返ったアミラと目が合ってしまった。
慌てて前方に目を向ける誠一であった。

隣でロジェがぼやいていた。
「少し緩み過ぎだな。流石にまっすぐな道が続くが、
馬を御しているにしては注意力散漫だな」

誠一が頷くと、すかさずロジェが言った。
「アルフレート君、君もだぞ」

誠一はすみませんと頭を下げた。
後方からは凍えるような冷気がまだ、伝わってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。 全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。 もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。 貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。 思いつきで適当に書いてます。 不定期更新です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...