580 / 905
572.それぞれの思惑11
しおりを挟む日向智樹は何と言うか、感覚派な奴だった。
見かけ真面目なくせに、中身は大雑把というか、なんというか……
フットサルの動きもそんな感じ。「なんであんな動きしたの?」と聞くと、返ってくる答えは大体「何となく」だった。
勿論それが良い結果に結びつく事もあるけれど、いずれにしても自分を省みる事をしないから、結果が次に活きる事は無かった。
まあ趣味のようなサークルだし、そこまでは……と言えばそれまでなのだけれど、じゃあ何のための練習なんだとか。負けっぱなしじゃやる気出ないとか、そう言う話にもなるもので。
結果、なんて言うか……俺は日向に好かれていないようだった。
(努力の方向性が違うんだよなあ)
俺から見るとそうなんだけど、本人にとっちゃ精一杯頑張っている。じゃあお前はどうなんだと結果を引き合いに出されると、やっぱ考え方が違うんだよなと思う。
過程の方が大事じゃね?
結果に結び付かなくても、努力の方向性が分からないままがむしゃらに走っても、何が良かったのか、悪かったのかを自分で把握出来ないなら意味がない、と思う。
まあ日向は、そんな風にぐちぐちと言いたくなるような、俺にとっては相性の悪い相手。
だからそいつの彼女がサークルに顔を出した時、正直言ってうんざりした。
別に彼女を連れて来るなとは言わないよ。
他の部員も連れてきて見学とかしてるしな。
でもなー、心象としては日向の彼女と聞いただけで関わりたく無かった。
まあだからこっちも簡単な挨拶だけして気配消してんだけど。
マネージャーの亜沙美が「可愛い彼女さん」何て褒め言葉を日向に言ったのをきっかけに、頻繁に連れて来るようになってしまった。
……面倒くせ。日向だけでも鬱陶しいのに。
とは言え関わる気が無いものだから、視界に入れないでいると、逆に変に意識するようになる。
(何か静かじゃね……?)
チラリと見ればコートの端で一人座って観戦しているようだった。
……別にどこで見ようと勝手だけど……遠くないか?
日向を見れば彼女の事は目にも入らないのか、別の部員と話し込んでいる。
(俺関係ないし……)
結局そんな光景を三日も見たら俺の神経は根を上げてしまって……
仕方がないので、それとなく「彼女さん」に近付いて、もっと皆の傍に寄ったら? なんて声を掛けてみた。
「気が散るみたいなんです……すみません。お気遣いありがとうございます」
困ったように笑う彼女に対して眉間に皺が寄る。
──なんであいつの都合に付き合ってんの?
そもそもあいつも見栄の為に呼びつけておいて、放置って冷たく無いか?
イラつき出す俺に静かな声で彼女さんが口にする。
「ご迷惑ですか?」
「……いや」
そんな事を思ってる訳じゃ無いけど……
もし日向に「彼女を放っておくなよ」とか言ってしまえば、俺のその言葉を盾に「他の部員から苦情があったから」とでも彼女に対して言い兼ねない。
俺と同じように、あいつも俺の事は嫌っているからな。
だから、
「……彼女さん、名前何て言うの?」
そんなあいつの都合に付き合うのが嫌だと思った俺は、それなら彼女さんと仲良くなれば、あいつに苦言を呈してくれるかもしれない、なんて単純に考えて。深く考えもせず三上さんに声を掛けた。
三上さんは段々と亜沙美や他の女子部員たちとも仲良くなっていき、自然とサークルに溶け込んでいった。
俺も少しずつ彼女と話すようになっていって、彼女は大分盲目的だなあ。と、かなり心配になってしまった。
「日向の一途なところが好きになったんだ?」
恥ずかしそうに話す彼女を見ては、いらっと顳顬に力が篭る。
「そんな人が自分を好きになってくれたらなあ……と」
はにかむ顔にむかつくのは何故だ。
一途と言えば響きがいいけど、結局どっちつかずの状態なんじゃないの?
腹立ち紛れに、じゃあもう幼馴染の子とは会って無いんだね? なんて、意地悪な言葉をぶつけてしまった。
この歳まで仲良くしている幼馴染と、急に距離を置くなんてありえないような気はしてた。
それでも心のどこかで、彼女から「うん」なんて嬉しそうな返事が返ってくる予感があったのと、そんな反応を聞いておきたい自分がいたから。
けれど彼女は曖昧に笑っただけで……否定はしなかった。
それを見ただけで俺は、
頭にカッと血が登った。
(何でだよ)
何で平気なんだ?
ずっと本命だった相手と、彼氏がまだ会ってるんだぞ。
しかも三上さんも、何でわざわざライバルの女に会ってやるんだよ。お人好し過ぎるだろ。
声を掛ける日向もおかしいが、応じる三上さんだって──
何で主張しないんだ……
(何で俺はこんなにイライラしてるんだ)
三上さんが笑ってるから。
……日向が好きだって。
一途で……いい奴だって。
一途イコールいい奴って訳じゃないだろうに。
付き合ってる彼女を不安にさせてる時点で……本当は日向は不誠実なんじゃないの?
はっと気づく。
でも多分それは……俺が三上さんに……日向に対して持って欲しい感情なんだって……
だからいつもこんなにイラついてたんだ。
一体いつからか、どうしてか、何て、自分でもよく分からないけれど……
(うあー、最悪……)
大嫌いな奴の彼女の事が……俺は好きみたいだ。
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣
ゆうた
ファンタジー
起きると、そこは森の中。パニックになって、
周りを見渡すと暗くてなんも見えない。
特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。
誰か助けて。
遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。
これって、やばいんじゃない。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
選ばれたのはケモナーでした
竹端景
ファンタジー
魔法やスキルが当たり前に使われる世界。その世界でも異質な才能は神と同格であった。
この世で一番目にするものはなんだろうか?文字?人?動物?いや、それらを構成している『円』と『線』に気づいている人はどのくらいいるだろうか。
円と線の神から、彼が管理する星へと転生することになった一つの魂。記憶はないが、知識と、神に匹敵する一つの号を掲げて、世界を一つの言葉に染め上げる。
『みんなまとめてフルモッフ』
これは、ケモナーな神(見た目棒人間)と知識とかなり天然な少年の物語。
神と同格なケモナーが色んな人と仲良く、やりたいことをやっていくお話。
※ほぼ毎日、更新しています。ちらりとのぞいてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる