転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた

文字の大きさ
上 下
580 / 905

572.それぞれの思惑11

しおりを挟む
 ルゴプス・アンフィスバエナ。
 それは【ドラゴンズ・ティアラ】のファンならば誰もが嫌悪する、作中最悪の悪役だ。

 このキャラクターはクズの中のクズと言って遜色ない。
 ネルヴァがまだかわいく見えるほどの、ありとあらゆる悪に手を染めて災厄をまき散らす、悪意と傲慢の結晶体そのものだ。

 ヤツはここアンフィス王国の第二王子、さらに魔法学院の生徒会長である立場を利用して、これから暴虐の限りを尽くすことになる。

 本来、関わるべき人物ではない。
 敵対関係となってしまう主人公に全てを任せてしまいたい、最悪の敵だ。

 しかしこのルゴプス王子は、俺とメメさんが愛するミシェーラ皇女を狙っている。
 ルゴプス王子の狙いは皇帝家への婿入りだ。

 自分が次の皇帝となって、世継ぎである兄を追い落とし、最終的に世界を我が物とする。そんな馬鹿げた夢のために、これから多くの者が犠牲になる。

 当然、主人公の座を横取りするならば、この最悪の悪役との敵対関係が必要となる。それが多くのイベントのトリガーとなる。
 とはいえ俺にはミシェーラ皇女との友好関係があるので、既に敵視されている可能性も高い。

 しかし念には念を入れて、主人公登場前に、ルプゴス王子との敵対イベントをこれから起こす。

 このイベントのトリガーとなるのは、クラスメイトであり攻略キャラであるコルリ・ルリハだ。
 ルプゴス王子は邪魔者であるコルリを生徒会から追放するために、彼女を卑劣な罠にかける。

 このイベントは主人公の転入前から既に始まっているはずだ。

 かくして4月13日。
 コルリの良くない噂を耳にした俺は、ライバル関係強奪のためにコルリに接触した。

「おまえー、なやみとかー、あんのー?」

「え……っ」

 とはいえあまり接点のないクラスメイトだ。
 男性恐怖症気味の彼女との接点を持つには、まおー様という『ぷにぷに』の緩衝材が必要不可欠だった。

 コルリは教室に独り残り、悲しそうに教室の黒板を見つめていた。

「ワレ、まおー。おまえのはなし、きかせろー?」

「まおーさん、ですか?」

「さまをつけろよー、でこすけやろー」

「わ、私っ、そんなにオデコちゃんじゃないです……っ」

 と言いながらも額を抱えられると、教頭ではないがまあ気になってしまう。
 てか頼むよ、まおー様、話が脱線してるってっ。

「なやみ、あんだろー? きいてやるよー」

「スライムさんにはわかりません……」

「ワレ、さわっていいからさー。さっさと、はなせ、めんどくせーなー」

 ぷにぷにのスライムに触っていいと言われたら、それは当然触る。
 コルリ・ルリハはまおー様のヘブンな触り心地に目を広げた。

「私、やってません……。お金なんて、盗んでません……」

「おうー、それ、つれーなー……」

 コルリ・ルリハのエピソードはそういう話だ。
 最初からぶっちゃけてしまうと、コルリは最悪のルプゴス王子に冤罪を着せられた。

「装備共同購入制度のお金を、私が盗んだとみんなが言うんです……」

「そっかー。でもなー、ワレにはなー、そうはみえねーなー」

「ありがとう、まおー様……」

「なんか、ムカつくなー。なんかー、やだなー、そういうのー」

 装備共同購入制度というのは、何かと高価な武器防具を学生が少しでも安く購入するための仕組みだ。
 共同購入者が集まるまで1~3ヶ月がかかるが、人さえ集まれば市場価格の7~9割ほどのお値段で武器防具が買える。

 この制度は購入前に代金を積み立てる。
 代金は金属製の【空色の小箱】に積められ、学校側が大切にこれを保管する。

「そのお金がね……消えてしまったの……。私は確かに先生に渡したはずなのに、保管中に箱の中から、お金が消えてしまったんですって……」

「えーー? ならおまえー、わるくないと、おもーけどなー?」

「箱を開けるには、パスワードが必要なの……。そのパスワードを知っているのは、業者の人か、私か、私に任せた生徒会長さんしかいないの……」

「へへへー、ワレ、はんにん、わかったー。はんにんは、せーとかいちょー、だな」

「そう、なのかしら……」

 普段、あれだけ温厚な少女コルリが人を疑う顔をした。
 だがまおー様の推理には穴がある。生徒会長ルプゴス王子にはアリバイがあった。コルリも同じことをまおー様に説明した。

「それ、うら、あんなー」

「裏、ですか……?」

「だってさー、べつにさー、せいとかいちょーが、じっこーはん? ならなくても、いいしなー?」

「あ、言われてみれば……そうですね……?」

「ぱすわーど? ほかのやつにさー、おしえれば、いいだろー? だったらアリバイなんて、いみねーし」

 まおー様、やるな。
 今回の事件、ぶっちゃけてしまうとその通りだ。

 今回の事件の実行犯は若い用務員の男だ。
 ルプゴス王子は普段から飼っていたこの男にパスワードを教え、金を盗ませた。
 生徒会から書記コルリを追い出し、もっと操りやすい腐った人間に交代させるために。

「私、どうすればいいんでしょうか……」

「へへへー、ワレが、たすけてやろーかー?」

「え、まおー様が……?」

「ワレ、こーみえてなー、つかえるこぶん、もってんだよなー」

「子分がいるんですかっ、そのお姿で!?」

「よぶかー? よんでやろーかー? あたま、まあまあいいし、つえーし、けっこー、つかえるぜー?」

「もう……なんでもいいです……。助けて下さるなら、もう誰でもいいです!! 助けて下さい、まおー様っ!!」

「だってよー、さっさとこいよなー、ヴァレリウスー」

「えっっ、ヴァレリウスくんっ?!」

 子分扱いがちょっとしゃくだが、なかなか面白い切り口だった。
 俺はのぞき見を止めて本校舎2階に壁をすり抜けると、コルリとまおー様のいる教室にノックをしてから踏み入った。

「待ったか、まおー親分」

「へっ、これ、よべばくるやつなー。なまえ、ヴァレリウス」

「調子に乗るな。……あー、ご紹介に与りました、ヴァレリウスだ」

 コルリさんは男性恐怖症だ。
 女の子同士なら無邪気に笑える女の子だが、男を前にするとてんでダメだ。
 そんないたいけな女性が恐怖にひきつった目で俺を見る。

 3回も攻略したのに、現実の好感度はゼロどころかマイナスだった……。

「よ……よろしく、お願いします……」

「話はまおー様から聞いた。その、テレパシー的な、何かで。……とにかく、まおー様の忠実な下僕である俺が、この事態を解決してみせよう」

 これは俺が主役になるより、まおー様を立てた方が話が早いな。
 俺が下僕と認めたことがそんなに嬉しいのか、まおー様は高々と跳ねて喜んでいた。

「うまくやれよー、めーたんてー。コルリのためにー、どれーとなって、はたらけよなー?」

 安心したようにコルリがまおー様に微笑んだ。
 コルリさんは冤罪を着せられ、いつ退学させられるかもわからない立場だ。
 その微笑みには黄金よりも高い価値があった。

「まおー様のお言葉のままに。では、俺は調査に向かいますので、明日あらためてご報告を」

「ほらねー、ワレの、ちゅーじつな、こぶんでしょー? ワレ、きょうはコルリとー、ねたいなー? だめかー?」

「い、いえっっ、ぜひご一緒して下さい! 部屋に独りだと、胸が、潰れてしまいそうで……」

「へっ、ワレがあたためてやんよー、べいべー」

 ディスプレイ越しに見ていた頃は、これは結局のところ介入の出来ない別世界の出来事だった。
 だがこうしてこの世界に立ち、実際に事案を目の当たりにすると無性に腹が立つ。

 生徒会を我が物にするために、なぜ真面目な女子生徒を退学まで追い込む必要があるのか。
 ルプゴス・アンフィスバエナ王子ってやつは相当にヤバい。コイツは人の破滅を楽しんでいる。

 俺は今日だけまおー様の下僕として、事件をスピード解決させるべく動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた
ファンタジー
 起きると、そこは森の中。パニックになって、 周りを見渡すと暗くてなんも見えない。  特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。 誰か助けて。 遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。 これって、やばいんじゃない。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...