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558.大会戦30
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「ふむ、強い想いは女王でさえも怯ませるものなのじゃのう。
この歳になるまで知らなんだ」
「ファウスティノ、あなたは知らぬふりをしていただけでしょう。
まあ、しかし、あれほどの想い、あの二人には辛いでしょうけどね」
エヴァニアは、誠一に寄り添う二人の女性に憐憫の目を向けていた。
「彼らの問題ゆえに努々、口を挟むんじゃないわよ。
そのくらいの見識はファウスティノ、持っておきなさい」
ファウスティノは珍しくムッとした表情で答えた。
「エヴァニア、流石にそれは失礼じゃて。
儂でも恋の一つや二つ知っておるし、叶わぬ恋も知っておるわ」
それはあなたが勝手に諦めた恋でしょうと
心の中で呟くエヴァニアであった。
「アルの奴め。人前で涙なんぞ見せやがって」
誠一とアミラを交互に見ながら、複雑な表情をヴェルはした。
アミラの誠一に向ける熱い視線がどうもヴェルには気になり、
ついつい悪態をついてしまった。
「何か心の琴線に触れることがあったのです。
だからあの涙なのです。
見ていても何だかかっこ悪いとか感じないです。
確かに女王の面前の態度としては最悪です。
クランのリーダーとしてもよろしくないです。
でも仕方ない時はあるのです」
ヴェルを見ずに二人の女性に介抱される誠一から
目を離さないアミラにムッとするヴェルであった。
「そうだな、かっこいい涙だな。
だったら、アミラもアルに優しくしてきな」
「結構です」
「別に俺に遠慮しなくてもいいだよ。行けよ」
ヴェルは語気が強くなったことを後悔したが、
口に出してしまった以上どうにもならなかった。
アミラは驚いような表情をヴェルに向けた。
ヴェルは、不貞腐れたようにそっぽを向いた。
アミラはにっこりと笑うと、ヴェルにしっかりと
身体を寄せて両手で抱き締めた。
「おっおい、血とか埃で汚れるだろ」
ヴェルは突然のことにうろたえながらそう言うが
無理に引き剥がさずにアミラの肩に手を回した。
「あれは傍から見ているぶんには、美しく映っていますが、
ヴェルがもし何人もの女性に手を出したら許しませんです」
鎧を介しているためにアミラの締め付けなど
感じない筈なのにヴェルは、アミラから全身を
締上げられている様に感じた。
夜に差し掛かっているにも関わらず背中に
冷や汗をかくヴェルであった。
ヴェルの表情を上目づかいでアミラは見るとくすりと笑った。
「私の騎士様は、嫉妬したり、震えたりとお忙しい方です」
図星を突かれたヴェルは大慌てで否定した。
「いやいや、違うから、それ。アミラが心配なだけだから」
「はいはい、そうですねー」
良く分からないヴェルの言い分を軽くあしらうと
彼の胸に顔を預けた。
「まったく呆れた連中だよ。ここは戦場さ。
色恋沙汰は後にして欲しいよね」
愚痴とも思えるようなことをサリナが呟いた。
「まあ、そう言うな。それよりそろそろ撤収しないと不味いな」
ロジェは苦笑すると、誠一に向けて撤収を勧めた。
「すみません、情けないところをみせてしまって。
みんな、撤収しよう」
誠一たちの前と後ろから風に乗って勝鬨をあげる声が聞えた。
誠一には一体、何をもって勝ちとするのか皆目分からなかったが、
仲間が誰一人欠ける事無く戦場を生き延びられたことを嬉しく感じた。
この歳になるまで知らなんだ」
「ファウスティノ、あなたは知らぬふりをしていただけでしょう。
まあ、しかし、あれほどの想い、あの二人には辛いでしょうけどね」
エヴァニアは、誠一に寄り添う二人の女性に憐憫の目を向けていた。
「彼らの問題ゆえに努々、口を挟むんじゃないわよ。
そのくらいの見識はファウスティノ、持っておきなさい」
ファウスティノは珍しくムッとした表情で答えた。
「エヴァニア、流石にそれは失礼じゃて。
儂でも恋の一つや二つ知っておるし、叶わぬ恋も知っておるわ」
それはあなたが勝手に諦めた恋でしょうと
心の中で呟くエヴァニアであった。
「アルの奴め。人前で涙なんぞ見せやがって」
誠一とアミラを交互に見ながら、複雑な表情をヴェルはした。
アミラの誠一に向ける熱い視線がどうもヴェルには気になり、
ついつい悪態をついてしまった。
「何か心の琴線に触れることがあったのです。
だからあの涙なのです。
見ていても何だかかっこ悪いとか感じないです。
確かに女王の面前の態度としては最悪です。
クランのリーダーとしてもよろしくないです。
でも仕方ない時はあるのです」
ヴェルを見ずに二人の女性に介抱される誠一から
目を離さないアミラにムッとするヴェルであった。
「そうだな、かっこいい涙だな。
だったら、アミラもアルに優しくしてきな」
「結構です」
「別に俺に遠慮しなくてもいいだよ。行けよ」
ヴェルは語気が強くなったことを後悔したが、
口に出してしまった以上どうにもならなかった。
アミラは驚いような表情をヴェルに向けた。
ヴェルは、不貞腐れたようにそっぽを向いた。
アミラはにっこりと笑うと、ヴェルにしっかりと
身体を寄せて両手で抱き締めた。
「おっおい、血とか埃で汚れるだろ」
ヴェルは突然のことにうろたえながらそう言うが
無理に引き剥がさずにアミラの肩に手を回した。
「あれは傍から見ているぶんには、美しく映っていますが、
ヴェルがもし何人もの女性に手を出したら許しませんです」
鎧を介しているためにアミラの締め付けなど
感じない筈なのにヴェルは、アミラから全身を
締上げられている様に感じた。
夜に差し掛かっているにも関わらず背中に
冷や汗をかくヴェルであった。
ヴェルの表情を上目づかいでアミラは見るとくすりと笑った。
「私の騎士様は、嫉妬したり、震えたりとお忙しい方です」
図星を突かれたヴェルは大慌てで否定した。
「いやいや、違うから、それ。アミラが心配なだけだから」
「はいはい、そうですねー」
良く分からないヴェルの言い分を軽くあしらうと
彼の胸に顔を預けた。
「まったく呆れた連中だよ。ここは戦場さ。
色恋沙汰は後にして欲しいよね」
愚痴とも思えるようなことをサリナが呟いた。
「まあ、そう言うな。それよりそろそろ撤収しないと不味いな」
ロジェは苦笑すると、誠一に向けて撤収を勧めた。
「すみません、情けないところをみせてしまって。
みんな、撤収しよう」
誠一たちの前と後ろから風に乗って勝鬨をあげる声が聞えた。
誠一には一体、何をもって勝ちとするのか皆目分からなかったが、
仲間が誰一人欠ける事無く戦場を生き延びられたことを嬉しく感じた。
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