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550.大会戦22
しおりを挟む(別荘の留守番なんて、そう何日も出来るものではないな。ハリソン様の従者の腰が治ってくれて良かった)
宰相まで上り詰めたハリソンの古くからの部下であるセドリックは独り言ちた。
ハリソンに頭が上がらないのは昔からだが、ノーマンに何の罪も無いことを知っているだけにセドリックの気は滅入っていた。
休みを貰ったが、雨の日に家の中にいても暗く、余計にどんよりしてきたので、セドリックはゆるゆると当てのない散歩に出掛けた。
ふらりと入った公園は、屋根付きのベンチやパラソル付きのテーブルセットなどが所々に置いてあって、こんな雨の日でも照りつける暑い日でも過ごしやすいようになっていた。
小振りなテーブルセットに腰を下ろしたセドリックは、斜め向かいに若くて可愛らしい女の子が3人いることに気付いた。
若くして平民落ちした元子爵令息のセドリックは青春時代の全てを労働と隣国との諍いに費やしてなんとか騎士爵を掴んだが、40も半ばになろうかという今まで恋人に恵まれたことは無かった。
恋とも言えない程の慕情を感じた娘はいたが、セドリックにはどうすることも出来なかった。
後に再び彼女と出会えたが、隠居した貴族の後妻になっていた。
ジャクリーンは隣国との境近くの村の食事処の娘だった。
彼女の両親はジャクリーンを表に出したがらなかったが、長引く諍いで駐屯する兵士は増員していて、どうしても手が足りずジャクリーンも店を手伝っていた。
たちの悪い連中の話はセドリックも耳にしていた。
だが、ある夜、セドリックを見張りに立ててジャクリーンを襲ったのは上司だったハリソンだった。
何もかも終わってから全てを知って崩れ落ちるセドリックに、ハリソンは「お前も共犯だからな」と言った。
平民落ちしたセドリックを拾ってくれたハリソンには逆らえず、セドリックはそのままずっとハリソンの犬だった。
そしてその隣国との諍いで武功を上げたセドリックとハリソンは爵位を賜った。
セドリックは結局騎士爵止まりだったが、ハリソンは元の男爵から子爵になり、侯爵家に婿入りして宰相にまでなった。
その原動力が復讐であることをセドリックは知っていた。
求心力を失いつつあった前国王と、当時は王太子だったレモネルは、起死回生の手段として“辺境伯の子供たち”を使った。
横領や領地での圧政、不当な増税、密輸、それらに阿る者、見逃す者、全てが摘発された。
セドリックの子爵家は密輸グループに追随していたことで取り潰しとなり、王都追放で一家は離散して13だったセドリックは理不尽な思いを堪えながら、住み込みで港の荷運び労働をしていた。
ハリソンの公爵家は男爵落ちで留まれていたが、ハリソン自身が学園での王太子の婚約破棄騒動に巻き込まれていた。
婚約者のオランディーヌ嬢がいるレモネル王太子との親密な関係を装って高位の令息たちを翻弄した男爵令嬢サティに、ハリソンは惹かれていた。
オランディーヌ嬢を誹り、レモネル王太子の失脚を画策したハリソンは、王都追放を命じられたのだ。
なんとしてでも返り咲くことを決意したハリソンは、同じ恨みを持つ仲間を増やしていった。
港で出会ったセドリックとハリソンは兵士に志願して武功を立て、王都に舞い戻ることを誓い合ったのだった。
(ハリソン様に恩義は感じているが、ジャクリーンのことを思うと……ん?あの子が着けているペンダントは…ジャクリーンに娘がいると聞いて居ても立ってもいられずに贈ってしまった物と似て…いや、メイベルに贈ったのと同じ物だ。あの子のブレスレットも、あの子の髪飾りも…!こんな偶然があるか?まさか…)
“辺境伯の子供たち”を撲滅したいハリソンは、マイラー・ネルソンの屋敷が“表”の施設であることを突き止めて、行商人を装ったセドリックに偵察に行かせた。
その先でセドリックは期せずしてジャクリーンと出会い、拾い聞きした会話からメイベルという娘がいることを知ったのだった。
視力がとても良いセドリックは、3人組の女の子たちが身に着けているアクセサリーに見覚えがあった。
見知らぬ娘にジャクリーンを重ねて選び抜いたのだから見違えることはなかった。
(待ち合わせか?あの男の子たちか。1人は保護者か?どういうグループなんだ?)
セドリックは6人の後を追って、馴染みの無いカフェに入った。
近付こうとしたが入り口近くの1人用の席に通されたセドリックは、よく分からないメニューを適当に選んで食べた。
6人は盛り上がっていてデザートまで頼んでいるようだったので、間が持たなくなったセドリックは店を出て6人を待って、後を尾行した。
(バラバラのペースで歩いているが、どうやら同じ所に向かっているみたいだな。え?…この先は確かドルトレッド伯爵の…もしかしてあの男の子たちのどちらかがフレッドなのか?…だとしたらあの金髪の小柄なほうだな)
ゆっくり歩いていた最後の女の子が屋敷に入るまで見送ったセドリックは、5人しか屋敷に入っていないことに気付かないまま、踵を返した。
逆に自分が尾行されていることにも気付かずに。
宰相まで上り詰めたハリソンの古くからの部下であるセドリックは独り言ちた。
ハリソンに頭が上がらないのは昔からだが、ノーマンに何の罪も無いことを知っているだけにセドリックの気は滅入っていた。
休みを貰ったが、雨の日に家の中にいても暗く、余計にどんよりしてきたので、セドリックはゆるゆると当てのない散歩に出掛けた。
ふらりと入った公園は、屋根付きのベンチやパラソル付きのテーブルセットなどが所々に置いてあって、こんな雨の日でも照りつける暑い日でも過ごしやすいようになっていた。
小振りなテーブルセットに腰を下ろしたセドリックは、斜め向かいに若くて可愛らしい女の子が3人いることに気付いた。
若くして平民落ちした元子爵令息のセドリックは青春時代の全てを労働と隣国との諍いに費やしてなんとか騎士爵を掴んだが、40も半ばになろうかという今まで恋人に恵まれたことは無かった。
恋とも言えない程の慕情を感じた娘はいたが、セドリックにはどうすることも出来なかった。
後に再び彼女と出会えたが、隠居した貴族の後妻になっていた。
ジャクリーンは隣国との境近くの村の食事処の娘だった。
彼女の両親はジャクリーンを表に出したがらなかったが、長引く諍いで駐屯する兵士は増員していて、どうしても手が足りずジャクリーンも店を手伝っていた。
たちの悪い連中の話はセドリックも耳にしていた。
だが、ある夜、セドリックを見張りに立ててジャクリーンを襲ったのは上司だったハリソンだった。
何もかも終わってから全てを知って崩れ落ちるセドリックに、ハリソンは「お前も共犯だからな」と言った。
平民落ちしたセドリックを拾ってくれたハリソンには逆らえず、セドリックはそのままずっとハリソンの犬だった。
そしてその隣国との諍いで武功を上げたセドリックとハリソンは爵位を賜った。
セドリックは結局騎士爵止まりだったが、ハリソンは元の男爵から子爵になり、侯爵家に婿入りして宰相にまでなった。
その原動力が復讐であることをセドリックは知っていた。
求心力を失いつつあった前国王と、当時は王太子だったレモネルは、起死回生の手段として“辺境伯の子供たち”を使った。
横領や領地での圧政、不当な増税、密輸、それらに阿る者、見逃す者、全てが摘発された。
セドリックの子爵家は密輸グループに追随していたことで取り潰しとなり、王都追放で一家は離散して13だったセドリックは理不尽な思いを堪えながら、住み込みで港の荷運び労働をしていた。
ハリソンの公爵家は男爵落ちで留まれていたが、ハリソン自身が学園での王太子の婚約破棄騒動に巻き込まれていた。
婚約者のオランディーヌ嬢がいるレモネル王太子との親密な関係を装って高位の令息たちを翻弄した男爵令嬢サティに、ハリソンは惹かれていた。
オランディーヌ嬢を誹り、レモネル王太子の失脚を画策したハリソンは、王都追放を命じられたのだ。
なんとしてでも返り咲くことを決意したハリソンは、同じ恨みを持つ仲間を増やしていった。
港で出会ったセドリックとハリソンは兵士に志願して武功を立て、王都に舞い戻ることを誓い合ったのだった。
(ハリソン様に恩義は感じているが、ジャクリーンのことを思うと……ん?あの子が着けているペンダントは…ジャクリーンに娘がいると聞いて居ても立ってもいられずに贈ってしまった物と似て…いや、メイベルに贈ったのと同じ物だ。あの子のブレスレットも、あの子の髪飾りも…!こんな偶然があるか?まさか…)
“辺境伯の子供たち”を撲滅したいハリソンは、マイラー・ネルソンの屋敷が“表”の施設であることを突き止めて、行商人を装ったセドリックに偵察に行かせた。
その先でセドリックは期せずしてジャクリーンと出会い、拾い聞きした会話からメイベルという娘がいることを知ったのだった。
視力がとても良いセドリックは、3人組の女の子たちが身に着けているアクセサリーに見覚えがあった。
見知らぬ娘にジャクリーンを重ねて選び抜いたのだから見違えることはなかった。
(待ち合わせか?あの男の子たちか。1人は保護者か?どういうグループなんだ?)
セドリックは6人の後を追って、馴染みの無いカフェに入った。
近付こうとしたが入り口近くの1人用の席に通されたセドリックは、よく分からないメニューを適当に選んで食べた。
6人は盛り上がっていてデザートまで頼んでいるようだったので、間が持たなくなったセドリックは店を出て6人を待って、後を尾行した。
(バラバラのペースで歩いているが、どうやら同じ所に向かっているみたいだな。え?…この先は確かドルトレッド伯爵の…もしかしてあの男の子たちのどちらかがフレッドなのか?…だとしたらあの金髪の小柄なほうだな)
ゆっくり歩いていた最後の女の子が屋敷に入るまで見送ったセドリックは、5人しか屋敷に入っていないことに気付かないまま、踵を返した。
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