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545.大会戦17

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誠一は仲間と言葉を交わすうちに冷静さを取り戻した。
そして、とんでもない大言壮語を感情の赴くままに
吐いたことを後悔した。
内心でどうしようと思い悩んでしまった。

全員が誠一の必勝の策を話すことに注目した。

『うぐ、どうしよう。
確か何かの話か歴史で敵陣に一人で突入して、
一刀の下に斬り倒したようなことがあったような気が。
何気なく仲間のような感じで敵陣に突入したはず』

誠一の脳がフル回転していた。そして説明した。
「僕らの服装は傭兵。ヴェルトール王国軍とも反乱軍とも
区別がつきにくいだろう。何気なく歩いてダンブルの下に向かう」

仲間たちは笑っていた。誠一は彼らが賛成しているのか
反対しているのか分からなかった。

日は陰り初めていた。戦は終わりに近づいていた。
「アル、本当に変わったことを思いつくわね」
キャロリーヌが誠一の右腕をとった。

「むっ。アル、それは独創でなく何かの文献からの引用でしょう」
キャロリーヌに負けまいとシエンナが誠一の左腕をとった。

「よしっ!確定だな。本陣に突っ込むぞ。先頭は俺だな」

「じゃあ、私はヴェルの隣で道を開くです」

慌てて誠一はヴェルとアミラの勘違いを解いた。
誠一は鎧の汚れを落として、身ぎれいにして先頭を歩き始めた。
両脇をキャロリーヌとシエンナが固めて、ヴェルとアミラが続いた。
ロジェとサリナが後方を警戒しつつ、最後尾を固めた。

 誠一たちは本陣近くまで何事もなく到着した。
本陣を守備するダンブルの儀仗兵が誠一たちに声をかけた。
歩みを止めて、儀仗兵に何気ない表情で応じるが、
誠一の心臓の鼓動は跳ね上がっていた。
「前線の傭兵部隊の状況を伝えようと急ぎ帰陣しました。
皇帝陛下へお目通りをお願い致します」

金髪の貴公子の爽やかな表情が儀仗兵の警戒を解いたようだった。
恐らくどこかの貴族の庶子か3男辺りの不遇をかこっている者と
勘違いしていると誠一は判断した。

儀仗兵の態度、言葉遣いが改まっていた。
「念のためお名前を確認させて頂きます。
それと魔道通信や伝令の者でなく、
自らおいでになった理由をお教えください」

ちっめんどくさい奴らと心の中で毒づくが、
誠一は爽やかな表情のままで流れるように答えた。
「今は、故あってマシュー・マサイアス・
ヴァーグメンデル・フォン・ビレッドスと名乗っている。
魔道通信や伝令では、情報を間違った解釈で受け取られて
戦場に大惨事を引き起こす恐れがあると判断したからだ」

儀仗兵たちは困惑した表情であった。
恐らく名前を覚えきれなかったためだろうが、
もう一度、聞き直すような失礼な真似もできずに
困っているのだろうと誠一は思った。思惑通りであった。
一度、にこやかに笑った。ぎこちなく儀仗兵たちも笑った。

「マシューが来たと伝えて頂ければ、大丈夫です。
僕も長すぎる自分の名前をたまに忘れてしまうことがあるんですよ。
名付けた親を恨んでいます。ともかく事は急を要します。
先行でどの方か皇帝陛下にお伝えください。マシューが来たと。
我々もすぐに向います」

誠一の助け舟に儀仗兵たちは乗った。
「そっそうですな。マシュー殿のおっしゃる通りです。
急を要する件ですね。直ぐに陛下へお伝えします。
お目通りの許可が下りるまですぐ側のとばりの前でお待ちください」

誠一はにこやかな表情で頷くと鷹揚に歩き出した。
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