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520.会戦直前1
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誠一は、ヴェルトール王国の王宮の大広間にて
此度の使節団の件に関して現女王であるバリーシャに報告していた。
無論、会見の前に詳細の報告は王国に済ませてあった。
会見はあくまでもデモンストレーションであり、
反乱軍に対する女王の意思を明確に示すためでもあった。
「使節団の多くが亡くなったと聞く。
非常に残念であるが、アルフレートよ、よくぞ生きて帰って来た」
死者を悼むような沈痛な表情はバリーシャから
誠一は感じられなかった。
バリーシャがまさしく定型文を棒読みしているようにしか
誠一には聞こえなかった。
「ははっ、ありがたきお言葉」
誠一はバリーシャの心の籠らない言葉に対して、
型通りの返答をした。
場所が場所ならば、笑いが取れそうなこの茶番劇であっても
王宮は静謐を保っていた。
居並ぶ文官、武官は表情を読み取られぬように
すまし顔を崩すことは無かった。
その後、あらかじめ定められた質問に誠一はよどみなく答えた。
形通りの式典は終わろうとしていた。
宰相を始めとした文官、武官たちは風並み立たずに
終わりそうな流れに一様にほっとした表情をしていた。
にぃ、形のいい唇をバリーシャが釣り上げた。
一瞬にして武官、文官一同の顔から血の気が引いた。
「アルフレートよ、褒美を取らせようと思うが、何か望みはないか?
確かおまえは廃嫡されて爵位を継げないな。
ならば、爵位でも与えよう。どうだ?」
誠一は跪いてバリーシャと視線を合わさないようにして答えた。
「女王のお心遣い感謝いたします」
「反乱軍で皇帝とかいうのを僭称しているダンブルは、
確か伯爵の地位を準備したそうだな。
奴より狭量でケチと思われるのは心外だな。そうだな宰相」
宰相は臍を噛む思いであった。
女王の言葉を遮りこの式典を終わらすべきであった。
話がめんどくさい方へ向かっているとしか思えなかった。
しかし、女王の言葉を否定することは宰相にとって難しかった。
「御意。女王がダンブルより狭量でケチではございますまい。
付け加えれば、女王は、何事においても公平であります」
チッ、女王が面前で舌打ちしたように聞こえたが
誠一は気のせいだと思う事にした。
周囲を盗み見ても文官、武官共に先ほどと変わらぬ表情であった。
「バリーシャ女王、次の謁見が控えております」
宰相はバリーシャが何かを言う前に畳みかける様に言った。
盛大なため息が王宮に響き、褒賞に関しては
追って沙汰を下すと宰相から伝えられて謁見は終了した。
誠一は謁見が終わるとその足で王立図書館の館長室に向かった。
館長室のドアから本のページをめくる音が聞えて来た。
「さっさと入室したまえ。ノックは必要ない。時間の浪費だ」
「失礼します」
本のページを捲る音に誠一の足音が混ざった。
深くフードを被った宮廷魔術師第一席「王宮書庫のアーカイブ」
ジルベルトール・カルザティのフードに隠された表情を読み取ることが
誠一にはできかなった。
しかし、フードが二度三度と揺れたところを見ると、
自分の訪問を不快に感じていると誠一は思った。
「静寂の中での読書。そして、ページを捲る音、紙が擦れ合う音。
どれもが私にとって素晴らし環境だ。アルフレート君、分かるよね」
やはり靴音がカルザティにとって、不快だったようだ。
「考え違いをして貰っては困る。
靴音だけでなく、君の呼吸する音に声、静寂を乱すものは全て不快だ。
言うまでもなく読書を邪魔するものは不愉快だよ」
それって暗に自分の来訪のことをいっているんだなと誠一は確信した。
長居は無用とばかりに誠一は用件を切り出した。
「報酬を受け取りに来ました」
フードが風もない室内でぴくりと動いた。
此度の使節団の件に関して現女王であるバリーシャに報告していた。
無論、会見の前に詳細の報告は王国に済ませてあった。
会見はあくまでもデモンストレーションであり、
反乱軍に対する女王の意思を明確に示すためでもあった。
「使節団の多くが亡くなったと聞く。
非常に残念であるが、アルフレートよ、よくぞ生きて帰って来た」
死者を悼むような沈痛な表情はバリーシャから
誠一は感じられなかった。
バリーシャがまさしく定型文を棒読みしているようにしか
誠一には聞こえなかった。
「ははっ、ありがたきお言葉」
誠一はバリーシャの心の籠らない言葉に対して、
型通りの返答をした。
場所が場所ならば、笑いが取れそうなこの茶番劇であっても
王宮は静謐を保っていた。
居並ぶ文官、武官は表情を読み取られぬように
すまし顔を崩すことは無かった。
その後、あらかじめ定められた質問に誠一はよどみなく答えた。
形通りの式典は終わろうとしていた。
宰相を始めとした文官、武官たちは風並み立たずに
終わりそうな流れに一様にほっとした表情をしていた。
にぃ、形のいい唇をバリーシャが釣り上げた。
一瞬にして武官、文官一同の顔から血の気が引いた。
「アルフレートよ、褒美を取らせようと思うが、何か望みはないか?
確かおまえは廃嫡されて爵位を継げないな。
ならば、爵位でも与えよう。どうだ?」
誠一は跪いてバリーシャと視線を合わさないようにして答えた。
「女王のお心遣い感謝いたします」
「反乱軍で皇帝とかいうのを僭称しているダンブルは、
確か伯爵の地位を準備したそうだな。
奴より狭量でケチと思われるのは心外だな。そうだな宰相」
宰相は臍を噛む思いであった。
女王の言葉を遮りこの式典を終わらすべきであった。
話がめんどくさい方へ向かっているとしか思えなかった。
しかし、女王の言葉を否定することは宰相にとって難しかった。
「御意。女王がダンブルより狭量でケチではございますまい。
付け加えれば、女王は、何事においても公平であります」
チッ、女王が面前で舌打ちしたように聞こえたが
誠一は気のせいだと思う事にした。
周囲を盗み見ても文官、武官共に先ほどと変わらぬ表情であった。
「バリーシャ女王、次の謁見が控えております」
宰相はバリーシャが何かを言う前に畳みかける様に言った。
盛大なため息が王宮に響き、褒賞に関しては
追って沙汰を下すと宰相から伝えられて謁見は終了した。
誠一は謁見が終わるとその足で王立図書館の館長室に向かった。
館長室のドアから本のページをめくる音が聞えて来た。
「さっさと入室したまえ。ノックは必要ない。時間の浪費だ」
「失礼します」
本のページを捲る音に誠一の足音が混ざった。
深くフードを被った宮廷魔術師第一席「王宮書庫のアーカイブ」
ジルベルトール・カルザティのフードに隠された表情を読み取ることが
誠一にはできかなった。
しかし、フードが二度三度と揺れたところを見ると、
自分の訪問を不快に感じていると誠一は思った。
「静寂の中での読書。そして、ページを捲る音、紙が擦れ合う音。
どれもが私にとって素晴らし環境だ。アルフレート君、分かるよね」
やはり靴音がカルザティにとって、不快だったようだ。
「考え違いをして貰っては困る。
靴音だけでなく、君の呼吸する音に声、静寂を乱すものは全て不快だ。
言うまでもなく読書を邪魔するものは不愉快だよ」
それって暗に自分の来訪のことをいっているんだなと誠一は確信した。
長居は無用とばかりに誠一は用件を切り出した。
「報酬を受け取りに来ました」
フードが風もない室内でぴくりと動いた。
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