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515.竜公国の陣にて2

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アミラはあの澄ました訳知り顔の軽薄そうな男を
ヴェルが尊敬していることがどうにも気に入らなかった。
あれと比べて自分を卑下する時のヴェルが
アミラはたまらなく悔しかった。
それを言えば、喧嘩になることもわかっていたため、
アミラはそのことを口にすることはなかった。
「人それぞれです。ヴェルは今のままがいいです。
それに虚飾の言葉は嫌いなのです」

「いやだけど、こんなに食べ易くておいしい料理を
何か表現したいだろ。
それにアルの言葉は虚飾でなく真をついてるぜ」
アミラはどうにもヴェルがアルフレート褒めれば褒める程に
ヴェルを取られているように思えて、イライラが募ってしまった。

「あーもう、アルフレートさんの賛辞はいいです。
それより早く寝て身体を休めるです。
傍にいるから不安にならずにさっさと寝るです」

ヴェルは右手を必死に動かしてアミラの左手の甲に添えた。
「ぐっ、いっ痛っ。アミラ、ありがとな」
ヴェルは目を閉じて眠りについた。

「ホントにもう」
ヴェルの寝顔を眺めていたアミラは、
彼の額に唇を軽く当ててから、食器の片づけを始めた。

何日かするとヴェルは節々に痛みや軋みを感じるが、
何とか動けるようになった。

「体調良し」
天幕の外に出たヴェルはハルバートを片手に呟いた。
天幕を出ると直ぐにグロウと会った。
「おう、やっと起き上がれるようになったか。
して、おまえはこれからどうするつもりだ」

「王都に戻るつもりだけど、助けて貰った恩もあるし
どうすべきか迷っている」

竜公国はこの地を拠点として活動しているようであった。
ヴェルが王都に戻れば、敵対する竜公国の軍についての情報を
話さざるを得なくなるだろう。ヴェルはそれを気にしていた。

「くわっはははは。ここを出られると思っているのか。
軍の機密程ではないが、お前が王都に戻れば軍の情報が洩れるだろう。
実力でここを抜け出す気か?」
黙っているヴェルに対してグロウが話を続けた。
「お前には無理だ。ここを抜け出すような機転はない。
貴様は、そういった詐術に長けた男ではないだろう。
それはアルフレートの得意とするところだろうよ」
グロウの強い視線に一歩も引かずにヴェルは答えた。

「グロウさんがどう思おうとそれはどうでもいいさ。
アルは王都で再会しようと俺に言った。
あいつは出来ないことは言わない。だから、必ず王都で再会するさ」

「ふん、わからぬな。お前のような素直で真っすぐな男が
心酔するような男ではないだろう。
宰相はアルフレートを評価しているようだが、
戦場を共にするなら俺はお前を選ぶがな」
表情に乏しい竜人グロウの顔つきからその言葉に嘘偽りないことを
ヴェルは感じた。
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