上 下
506 / 830

498.使節団11

しおりを挟む

「アル、行くぞ!」
「アル、何してるの!彼女、婚約者でしょ。見殺しにする気なの!」

2人に急かされるが、確実な死に向かって突っ込むには
強い覚悟が必要だった。誠一はみっともなく叫んだ。

『千晴さん!力を貸してください。助けてください。
シエンナを彼女を助けたいんです』

『へっ、これって危機的状況だったの?』

この馬鹿女が!そんなことは、見れば分かるだろう。
誠一は激昂して、心の中で叫んでいた。

『ごっごめんなさい。誠一さんたちがポコポコと敵を倒しているから、
全然、気づかなくって。シエンナが犠牲になりそうなのよね』

まずい、心の叫びが書き込まれたのか、誠一は心配になり咄嗟に謝った。
「すっすみません。焦って、感情が昂ってしまいました」

『凄い表情だったので驚いただけです。
それより少し頑張ってください。詳しい方に連絡します』

『お願いします、急いでください』
誠一が叫ぶとシエンナの方に向かって動き出した。
それを見た二人も誠一に合わせて動き出した。

「よしっ!姉貴、アルに続くぞ。何か啓示を受けてそうだ」

「行くわよ!シエンナに追いつくわよ」

2人と合流した誠一は励ます気もあって、神の事を伝えた。
「二人とも千晴さん、あっいや神が何か策を講じてくれるようです」

誠一の言葉に二人は頷き、改めて気力を振り絞った。

突如、誠一たちの上空が暗くなった。彼らを巨大な影が覆った。
突然のことに3人は空を見上げた。空には巨大な竜が飛翔していた。

「アルーあれは、あれは、あれか?」

「分からん」

「二人ともよく見なさい。あれは竜公国の竜騎兵よ」

くそっここまでか、誠一は観念した。
竜公国まで相手にして、生き残れる訳がない。
誠一は一瞬だけ瞳を閉じた。

最後の時にシエンナを一人だけにする訳にはいかない。

そう思うと、誠一は雄叫びをあげた。
「うおおおおっ!二人とも脱落せずについて来て」

「おうっやれるだけやったるぜ」
ヴェルの『絆の仲間』が発動し、力を与えた。

「言われなくても最後の最後までついて行くわ」
キャロリーヌの『純潔の婚約者』が発動し、力を与えた。

誠一たちの後方でゾンビやスケルトンが跳ね上がり、砂塵が舞い上がっていた。

「なんだありゃ」

「さあ、ヴェル。見える?」

「いやいやいや、先頭をグロウさんが走ってる」

逆に正門の方から悲鳴や歓声が上がり始めた。

「ヴェル、正門の騒ぎは何か見える?」

「ちょっと待て。むっレドリアンとデルガドがいない。
城兵同士が争っている上にゾンビども倒し始めているぞ。
ってかシエンナと接触して、こちらに戻って来てる。
ってかシエンナは阿保か。この状況で空に向かって祈ってるぞ。
あっ、何か戦士のようなリーダーらしき男に頭を叩かれてる」

誠一の頭に声が聞えた。

『誠一さん、北関の方から出て来たのは、
知り合いのプレーヤーのキャラクタです。
撤退咆哮にいる敵だけに注意して』

千晴の声が聞えると同時にシエンナが合流した。
誠一は安堵した。状況の厳しさとは裏腹にほっとした表情を
隠しきることはできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...