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489.使節団2

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誠一はどう答えるか思案していると、
30秒も満たずに痺れを切らしたジルベルトールの声のトーンが下がった。
「アルフレート君、君ぃ、何を考えているのかね。
『はい』と言うだけじゃないか。
そう言えば、後は使節団の代表に僕は話すだけだ。
後はそっちで頼むよ。先輩が仕事を斡旋しているのに断る気かい。
全く、早く本読みたい」

こいつは自分の都合を優先しているくせに
後輩の為とかうまい具合に脳内変換してやがる。
バイト先でたまに見かける典型的な嫌な社員タイプの奴だ。
断れば、善意を否定されと逆ギレして、陰に陽に嫌がらせを
するタイプに違いなかった。誠一は意を決した。
「わかりました。使節団の件、受けます」

声のトーンが明らかに変わった。
「おおそうか、そうか。気を付けて行ってくるがいい。
ほんと、本読みたい」

「ただし、一つ、魔術院の先輩のジルベルトール様に
お願いがございます」

「お願い事ねえ。まあいい、言ってみなさい」

「太古の神殿、またの名を祈りの神殿に関する情報の開示と
エリクサーの入手についてです」

誠一は、フードの奥からジルベルトールの二つの瞳が開き、
観察されているように感じた。

「どうやら本気のようだね。良かろう。
君が生きて帰って来れたならば、知る限りの情報を与えよう。
だがまあ、今の君ではその二つ名の神殿を攻略することは無理だ。
エリクサーは、そうだね、極まれに市場に現れることがある。
耳にしたならば、君に伝える様にしよう。
青年よ、死すべき定めの者に拘るな。
若さとは、将来に無限の可能性を秘めている。無駄にするなよ」

ジルベルトールは、右手でフードを撫でながら、
「我ながら、らしくない」とぽつりと呟いていた。

誠一はジルベルトールがおおよその事情と目的を掴んでいると
判断したが、改めてお願いしてから部屋を出た。

誠一は唇を噛みながら、歩いた。
どうせこの世界を抜け出せば、この世界での将来など俺には関係ない。
この世界を抜け出す前にどうしてもリシェーヌだけは
解放しておきたかった。ただそれだけだった。
それだけのことを昔から思い続けていたはずだった。
だがリシェーヌことが色褪せぬ思いなのに比べて、
この世界を抜け出す意思が弱くなっているような気がした。
強く思い直さないとどうにも忘れがちになっていた。

「痛っ」

少し強く噛んだ唇から血が流れて、口の中に血の味が広がった。
懐に忍ばせてある回復薬を膏薬代わりに傷口に染み込ませた。

「痛っ」

膏薬が傷口に染み込んで、痛みを感じた。
そんな痛みを感じていると、誠一はいつの間にか
先ほどの思いを忘れて、使節団の件について考え始めていた。
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