上 下
486 / 830

480.対決1

しおりを挟む
誠一、ヴェル、そしてシエンナは魔術院で課題をこなす毎日であった。
毎日、敗残兵として魔術院の生徒もグリーンシティに到着していた。
それは騎士学園も同じであった。
 戦場で帰らぬ人となった者、腕や脚を失った者、兵士に比べれば、
その数は僅かであったが、学生にも犠牲者はいた。

 誠一たち3人が課題を終わらせ、食堂で昼食を取っている時のことであった。
高等部や同学年の学院生たちが彼らを囲んでいた。

「アルフレート、君はどうしてまだ、魔術院にいるんだ?
君の居場所はここじゃないだろう」

「そうだ。麗しの皇帝陛下に尾っぽを振っとけ。
さっさと、反乱軍に戻れよ。この二枚舌野郎」

「おまえのお陰でどれだけ魔術院の評判が落ちたと思っているんだ。責任取れよ」

「お前がここにいると俺たちのキャリアに傷がつくだろ。やめちまえよ」

「ヴェル、シエンナもこんな奴と一緒にいるなよ。こっち来いよ」

事情を知らない学生たちが誠一たちの反乱軍への投降、
王国離反、そして、反乱軍を裏切っての王国への投降を
批判してきた。
世情が彼らを不安にさせ、苛立たせていた。
誰でもいいから、難癖や八つ当たりしていれば、
その間だけでも彼らはそれらの感情から逃れることができた。

「ちょっと、何てことを言うのよ。
あんたたちねー、アルが一体、何故、ここいるか考えたら、
どんな任務に就いていたか分かるでしょうよ」
シエンナが頬を膨らませて、凄んだ。
誠一はあまり迫力を感じなかった。
その代わりにその可愛らしさにほっこりしてしまった。
それは取り囲む男子たちも同じようであった。
その反面、男子たちのにやけ面に女子たちは
不満一杯の表情であった。
よっぽどその女子たちの迫力の方が誠一には恐ろしかった。

「おい、シエンナ。何、男どもをほっこりさせてるんだよ。
それよりおまえら俺を愛称で呼べるほど仲が良かったか?
ヴェルナーさんだろうが!」
ヴェルが傍に置いてある愛用のハルバートを片手に取ると、
頭上で4,5回、旋回させた。
ドン、ヴェルがハルバートの柄の端末を床に叩きつけた。

「ヴェル、やる気か!やるならやってやる。
お前ら臆病者と違って俺らは戦場を経験してきたんだぞ」
1人の男子がそう言って周りを見渡したが、
意外にも他の仲間はそれに迎合せずに目線を合わせようとしなかった。
そこでやっと誠一が口を開いた。

「君たちが一体、僕らに何の不満があるのか分からないが、
正式な手続きに則って決闘を受けようか?」

誰も誠一と目を合わせようとしなかった。
凄んだ本人すら、俯き誠一を見ようとしなかった。
感情を押させた抑揚のない誠一の声が続いた。

「さあ、決闘を望む者は挙手を。
望まぬ者は大人しく席に戻って、課題を再開すればいいさ」

彼等は互いを牽制しながら、じりじりと後退していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で生き残る方法は?

ブラックベリィ
ファンタジー
第11回ファンタジー大賞が9月30日で終わりました。 投票してくれた方々、ありがとうございました。 200人乗りの飛行機で、俺達は異世界に突入してしまった。 ただし、直前にツアー客が団体様でキャンセルしたんで、乗客乗務員合わせて30名弱の終わらない異世界旅行の始まり………。 いや、これが永遠(天寿を全うするまで?)のサバイバルの始まり? ちょっと暑さにやられて、恋愛モノを書くだけの余裕がないので………でも、何か書きたい。 と、いうコトで、ご都合主義満載の無茶苦茶ファンタジーです。 ところどころ迷走すると思いますが、ご容赦下さい。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。 全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。 もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。 貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。 思いつきで適当に書いてます。 不定期更新です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...