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438.夢の世界2

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「誠一、ごめんなさい」
さっきの泣きそうな表情と打って変わって、
にこやかな表情で誠一の隣を歩く娘。

「まっまあ、リシェーヌが悪い訳じゃないけどさ」
この笑顔を見てしまうと何でも許してしまいそうになる自分が
情けなかった。

「ぷぷっ、誠一。うけるぞ、なーにリシェーヌに助けられんだよ」
誠一の左肩が派手に何度も叩かれた。

誠一は声の主に思いっきり不機嫌そうな表情を向けた。
「ちっ、見ていたなら助けろよな。ヴェル、おまえの時も助けんぞ」

「それが年長者の言葉かー。訂正しろー。大人の対応を見せろ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐヴェルであった。

「まーしかし、誠一も何で急にリシェーヌを見つめていたの。
顔に虫でも止まってたの?」

「ちょっと、シエンナ。それは酷くない。
誠一は単にわたしに見惚れていただけ」

果てなく続きそうな二人の応酬であった。
第三者として聞いている分には面白かったが、
巻き込まれるのは御免とばかりに足を早めた。
駅から大学までは少し距離があるが歩道は木々が覆い、
歩行者を強い日差しから守っていた。

「うーん、いい風だ」
誠一は大きく腕を伸ばした。木々の緑の葉が大きく揺れていた。
風はかなり強く吹いているようであった。

目を凝らすと前方に金髪の女性が立ち止まっていた。
こちらに向けて手を振っている様にも見えた。
歩道を歩く男女関係なく、やっかみと嫉妬、
そして冷たい視線を誠一に送っていた。

「はあ、せめて待つにしても
もう少し目立たないようにして貰えないものかな」
誠一は盛大にため息をついた。

「無理だろ、それ」
とヴェル。

「無理ね、あきらめなさい」
とシエンナ。

「無理だし。誠一、ちょっと贅沢過ぎる」
とリシェーヌ。

誠一ははいはいと適当に3人をあしらいながら、
手を振る女性の方へ向かった。

「ちょっと、誠一。こっちだけ手を振ってたら、阿保みたいでしょ。
ちゃんと手を振りなさい」
リシェーヌやシエンナの持ちえない色気と美貌を
兼ね備えたキャロリーヌが顔を真っ赤にしならが、訴えていた。
キャロリーヌの両手ががっちりと誠一の肩を掴んで振り回していた。

「ぎゃ、なにすんだよ」
誠一の隣に何気なく立っていたヴェルが弾き飛ばされた。

「ヴェル、邪魔」
さりげなく誠一の隣を確保したシエンナに対抗しようと、
リシェーヌがヴェルを容赦なく押し飛ばしたようであった。

何かを言おうとしたヴェルが悲鳴を上げた。
「ひいいい、すみません」

リシェーヌの顔を見たヴェルは悪くもないのに
自然と謝罪の言葉がでてしまっていた。

それは、雲一つない晴天の下で繰り広げられる3人の
美女のたちの仁義なき戦いであった。
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