転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

435.集結地11

「待ってくれ。死にたくない。俺には家族がいるんだ。
そうだ、それに病気で苦しんでいる母もいるんだ。
頼む、助けてくれ」

誠一がロジェに向けて重苦しく首を振った。

彼の鑑定眼では男は独り身であった。

「お前が首を刎ねたＮランクにも家族があったかもしれないな」
ロジェも馬を走らせた。

「待ってくれ。俺には寝たきりの妹がいるんだ。
そうだ、今まで貯めた金貨を全てやる。
だから、連れてってくれー」

男の声は闇に響き渡るだけであった。
既に誠一たちは、彼の声が聞えない程に離れていた。
男はポーションをぶるぶると震えながら口に含んだ。
その内、男の身体は、ぼこぼこと肥大して破裂した。


「アル、少し休んで。ね、ねっ少し眠ろうね」
シエンナが誠一の肩に手をかけた。

力なく頷くが、どうにも眠れなかった。
瞳を閉じると先ほどの惨状にありありと
目に浮かびそうで恐ろしかった。
死ぬ間際に彼らはプレーヤーの啓示の拘束から解放された。
それは死に至るまでのほんの一瞬であった。
その一瞬に秘められた思いは各々、違っていた。
ある者は怒り、怨嗟、呪詛、ある者は悲痛、悲嘆、
ある者はほっとしたような、さまざまな思いであった。
全ての感情が誠一に向けられた訳ではなかったが、
全ての視線が誠一に向けて固定されていた。
今際の際の感情を一身に受け、誠一の心は摩耗していた。


ヴェルは誠一の側でごそごそと道具を漁っているようだった。

「おっあったあった。アル、これを飲め！」
ヴェルは誠一に飲ませようとしたが、誠一はだるそうにやんわりと
それを拒否した。

「ちょっと、ヴェル、それ何なのよ？」

「あーこれか！
これは、神が下賜されたアイテム
『スーパーリラックス安眠薬(ハーブ入り)』だよ。
シエンナ、悪いけど、俺が抑えつけるから、
アルにこれを飲ませてくれ」

ヴェルは誠一を羽交い絞めにした。
シエンナが誠一の口に含ませようとしたが、
誠一は流れ込む液体を吐き出そうとした。

「あーもう！ヴェル。
私も寝ちゃうかもしれないけど、後、よろしく」
シエンナは、安眠薬を自分の口に含むと、
誠一に直接口移しで飲ませた。
それでも拒否しようとする誠一の舌へ
強引に自分の舌を絡ませて、誠一に飲み込ませた。
ぎこちなく絡み合うお互いの舌にシエンナは
身体の芯から熱くなるのを感じると同時に凄まじい睡魔が襲ってきた。
誠一から唇を離すと、彼の頭がことりと垂れ盛った。

「ヴェル、悪いけど、後よろしく」
シエンナは言い終えると、誠一と同じように頭を垂れた。

「ったく良い身分だぜ、二人ともよ」
悪態をつくが、ヴェルは誠一とシエンナに
負担がかからないように身体を寝かした。

馬車は車輪がコトコトと音を立てながら、
止まることなく走っていた。