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429.集結地5

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打突を加えられている赤帽鬼は、避けることも
逃げることもできずに一方的に殴り切り刻まれていた。
しかし、傷や痛みは与えているが、
決定打にはかける二人の攻撃であった。

「アルー、ヴェル、そこから離れて、その魔物の拘束を強めて!」
遠くからキャロリーヌの声が聞えた。

「一本の矢よ。その矢尻へ神の拳を顕現させよ。フォストゴッテスっー」

放たれた矢は、暗闇を切り裂き、夜空に突き刺さらんとする勢いであった。
暗闇の中へ消えた矢は、神の拳を率いて、赤帽鬼に向かって降下を始めた。
矢の周りに発生している気流は暗闇を引き裂いていた。
遠目には、闇の亀裂に巨大な拳が赤帽鬼へ向かって、
振り下ろされるように見えたであろう。

「アル、急ぎ撤退だー巻き込まれるぞ!
我が鮮血を触媒として顕現せよ炎よ。
燃えよ燃え上がれ、燎原の火よ、全てを喰ら尽くせ」
ヴェルは逃げながらも赤帽鬼へ炎の檻を展開した。

「まったく!風の檻ヨ、全てを大気の中へ拘束せよ、空牢郭」
誠一も逃げながら、赤帽鬼へ拘束魔術を展開した。

凄まじい衝撃が誠一とヴェルを襲った。
周囲の木々は潰され、なぎ倒されていた。
赤帽鬼のいた中心部には小さなクレーターができていた。
二人はその衝撃で転がっていた。

「二人とも急げ。馬車と馬を出すぞ。
ここから逃げるぞ。奴は死んではいない」
ロジェが大声で指示を出していた。
二人も急いで立ち上がり、馬車の方へ向かった。

以前より数倍も威力が増している技であったが、
それでもあの魔物を屠るには至らなかった。

「あの魔物に止めを刺すには些か武器と技量が足りない。
しかし、奴も相当にダメージを負ったはずだ」
ロジェは騎乗しながら、早口で話していた。
「俺が先頭で誘導する。サリナは馬で馬車の後方を警戒。
ヴェル、馬車を取りまわせ。
アルフレート君、キャロ、シエンナは体力と魔術の回復に
努めなさい」

「ちっしゃーねえ。アル、何か襲って来たら、頼むぞ」
ヴェルは手綱を握ると直ぐに馬車を走らせ始めた。

「あれほどの攻撃を以てしても倒せないか」
誠一は一人心地であった。

「アル、あの技は、対軍、対城向きの技だから。
一撃の威力を以て、上位魔人を倒せるとなると、
ファウスティノ、エヴァニア司祭、
そして、剣豪鬼谷、勇者フリッツ辺りよ。
それに手持ちの武具にもよるわ」
キャロリーヌが誠一の独り言に反応した。
あのクラスに到達する頃には相当な歳を取っていると思った。

「それにグロウさんも追加しておいてくれ」
ヴェルが話に割って入って来た。
「アル、武具は心配すんな。
また、温泉に入るついでにヨークさんの工房を訪ねようぜ。
ラッセルさんがまた、奇抜な武器を製作しているさ」

「あのねーヴェル。奇抜な武器より強力な武器が必要なの」
シエンナがヴェルを窘めた。
「それとアル、ヴェル。
二人ともあのフレイムなんちゃらと
エアなんちゃらはもう諦めた方がいいんじゃない。
遠目から見てたけど、全くと言っていい程、
ダメージが魔人になかったわよね」
ヴェルと誠一の声が重なった。
「「ロマンだ」」

うとうとしていたシエンナの耳にその言葉が入った時、
彼女は諦めたようにため息をついた。そして、瞳を閉じた。

誠一とキャロリーヌも同じように瞳を閉じて、体力と魔力の回復に努めた。
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