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408.方針3
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軍を率いるストラッツェール侯爵家現当主ドレルアンは、
レドリアンを呼び出していた。
「一体、いつまでここに留まっていればいいのだ?
本国の意図が分からぬ。こうしている間にも
日和見主義で二枚舌の貴族どもが反乱軍に与して、
勢力を伸ばしているぞ。
導師、どういう理由か説明をして貰おう」
レドリアンも本国より詳細の説明は受けていなかったが、
本国の意図をほぼ正確に把握していた。
しかし、あくまでレドリアンの推測であり、
それをそのまま伝える程、愚かではなかった。
「本国からの伝令は、戦線の維持とのことです。
前回の轍を踏む訳にはいきません。
更なる戦力の補強をもって、砦の攻略を開始するとのことです」
ドレルアンは内心激怒していたが、
それが表情に出る程、愚かではなかった。
「長い膠着状態は兵が倦む。
ここまで破竹の勢いで盛り返したのだぞ。
兵気は、今なのだがな」
レドリアンは眉一つ動かさなかった。
「本国の指示です。推測しますにあの砦の一角には、
世に謳われる真紅の戦士ナサレノ、拳の求道者バルフォード、
不世出の死霊術師デルガドなどが駐留しています。
彼等との直接戦闘を避け、兵の損耗を避けるためではないでしょうか。
何といっても奴らは冒険者、金やその他諸々でどちらにも転びます」
「この反乱を政争の道具にしようと良からぬことを
考え蠢動している者たちがいるであろう、導師。
それとも三席ではそのような話は持ち掛けられなかったかな。
愚かで不満を心に秘める者たちを本国では炙り出している最中であろう。
どちらも愚かな事ヨ。反乱など短期で鎮圧せねば、後に禍根を残す。
そもそも勝てる保証のある戦などない。
戦機を失えば、ヴェルトール王国自体が危うくなるのだがな。
文官どもの遊戯にも困ったものだ」
ドレルアンはニヤリとした。白い歯がきらりと光り、
如何にも爽やかな印象をレドリアンに与えたが、
言っていることは、それとは全く真逆のどろどろした話であった。
レドリアンは明言を避け、頭を下げるに留めた。
ドレルアンもヴェルトール王国の中枢の海千山千の猛者たちと
権謀術数を争ってきた男であった。
この男との会話には細心の注意を払わねばと
レドリアンは改めて、警戒した。
「それはそうと、エスターライヒ家の小倅は、
グレートウォールで諜報活動どころでなく、
派手に引っ掻き回しているな。導師、思惑通りかな?」
愉快そうにドレルアンは笑った。
無論、レドリアンと誠一の経緯を知ったうえで話していた。
「まさか、諜報活動に徹するように指示を徹底しましたが、
どうにも目立ちたがりのはねっかえり者のようで」
レドリアンは誠一のことを聞くだけで
腸が煮えくりかえるようであった。
「そうかそうか、天下のレドリアン導師でも
御しえないはねっかえり者であったか。
しかし、あ奴の動き次第でこの戦にも動きがありそうだな」
決して誠一を褒めている訳ではない言葉であったが、
誠一を少しでも持ち上げる言葉にレドリアンは過剰に反応した。
「あのような粗忽者が重宝されるなら、
ダンブルの反乱など恐れるに足るものではありません」
「しかし巷の噂では、白き鎧を賊軍の血で紅く染め上あげ、
真の赤備えをダンブルに馳走しますとまで豪語したようだな。
詩的な才能はありそうだ」
ドレルアンは豪快に笑い、レドリアンに下るように申し付けた。
レドリアンの能面の様に保っていた表情が崩れ、
醜悪に歪んだ表情をほんの少しだけさらけ出していた。
その表情をドレルアンは確認することができ、満足した。
レドリアンを呼び出していた。
「一体、いつまでここに留まっていればいいのだ?
本国の意図が分からぬ。こうしている間にも
日和見主義で二枚舌の貴族どもが反乱軍に与して、
勢力を伸ばしているぞ。
導師、どういう理由か説明をして貰おう」
レドリアンも本国より詳細の説明は受けていなかったが、
本国の意図をほぼ正確に把握していた。
しかし、あくまでレドリアンの推測であり、
それをそのまま伝える程、愚かではなかった。
「本国からの伝令は、戦線の維持とのことです。
前回の轍を踏む訳にはいきません。
更なる戦力の補強をもって、砦の攻略を開始するとのことです」
ドレルアンは内心激怒していたが、
それが表情に出る程、愚かではなかった。
「長い膠着状態は兵が倦む。
ここまで破竹の勢いで盛り返したのだぞ。
兵気は、今なのだがな」
レドリアンは眉一つ動かさなかった。
「本国の指示です。推測しますにあの砦の一角には、
世に謳われる真紅の戦士ナサレノ、拳の求道者バルフォード、
不世出の死霊術師デルガドなどが駐留しています。
彼等との直接戦闘を避け、兵の損耗を避けるためではないでしょうか。
何といっても奴らは冒険者、金やその他諸々でどちらにも転びます」
「この反乱を政争の道具にしようと良からぬことを
考え蠢動している者たちがいるであろう、導師。
それとも三席ではそのような話は持ち掛けられなかったかな。
愚かで不満を心に秘める者たちを本国では炙り出している最中であろう。
どちらも愚かな事ヨ。反乱など短期で鎮圧せねば、後に禍根を残す。
そもそも勝てる保証のある戦などない。
戦機を失えば、ヴェルトール王国自体が危うくなるのだがな。
文官どもの遊戯にも困ったものだ」
ドレルアンはニヤリとした。白い歯がきらりと光り、
如何にも爽やかな印象をレドリアンに与えたが、
言っていることは、それとは全く真逆のどろどろした話であった。
レドリアンは明言を避け、頭を下げるに留めた。
ドレルアンもヴェルトール王国の中枢の海千山千の猛者たちと
権謀術数を争ってきた男であった。
この男との会話には細心の注意を払わねばと
レドリアンは改めて、警戒した。
「それはそうと、エスターライヒ家の小倅は、
グレートウォールで諜報活動どころでなく、
派手に引っ掻き回しているな。導師、思惑通りかな?」
愉快そうにドレルアンは笑った。
無論、レドリアンと誠一の経緯を知ったうえで話していた。
「まさか、諜報活動に徹するように指示を徹底しましたが、
どうにも目立ちたがりのはねっかえり者のようで」
レドリアンは誠一のことを聞くだけで
腸が煮えくりかえるようであった。
「そうかそうか、天下のレドリアン導師でも
御しえないはねっかえり者であったか。
しかし、あ奴の動き次第でこの戦にも動きがありそうだな」
決して誠一を褒めている訳ではない言葉であったが、
誠一を少しでも持ち上げる言葉にレドリアンは過剰に反応した。
「あのような粗忽者が重宝されるなら、
ダンブルの反乱など恐れるに足るものではありません」
「しかし巷の噂では、白き鎧を賊軍の血で紅く染め上あげ、
真の赤備えをダンブルに馳走しますとまで豪語したようだな。
詩的な才能はありそうだ」
ドレルアンは豪快に笑い、レドリアンに下るように申し付けた。
レドリアンの能面の様に保っていた表情が崩れ、
醜悪に歪んだ表情をほんの少しだけさらけ出していた。
その表情をドレルアンは確認することができ、満足した。
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