上 下
380 / 830

374.打ち上げ4

しおりを挟む
「いや、グロウさん。僕は魔術師ですから。
それにヴェルとシエンナもヴェルトール王国の魔術院で学ぶ仲間です」

「そのことは知っているが、ファウスティノの下で学ぶ魔術師は
真っ当な魔術師じゃないだろう。どこか宮廷魔術師共と違う。
会う奴会う奴、どうにも変わり者が多い。
おまえらも魔術師のくせに槍やメイス、杖を振り回すだろ。
まあいい、それより陛下の差し入れのこの酒、旨いな。
ロジェ、呑まないならよこせ」
グロウは良い具合に酔っているのか、悪意は感じないが
傍若無人な振る舞いが増えてきた。

そして、その振る舞いが多くなるにつれて、再びアミラの表情が曇った。
「グロウ、その酒はこの国への客人に振舞うためのものじゃぞ。
さてさて、お主、一人で呑み干したとなると、一体どうなることやら」
宰相の言葉を聞いた瞬間にグロウが酒瓶を持ち、
ロジェやキャロリーヌにしつこく進め始めた。
どうにもグロウは酒癖が悪いようであった。
誠一たちに酒を強要したり、一気飲みを強要しない分、
マシな部類にはるのかなと誠一は楽しそうに眺めていた。

アミラにはヴェルが何かささやいていた。アミラの表情がぱっと輝いていた。
そして、何かをせがむようにしていた。ヴェルは照れた表情で話し出した。
どうやら魔術院の話をしているようであった。
グロウとロジェの酒の激論で良く聞こえなかったが、
どうやら酒の話をしているようであった。
シエンナは、要所要所でヴェルに突っ込みを入れているようであった。
それに一々反応して、アミラがどちらを信じていいのやら
二人の間をきょろきょろしていた。
キャロリーヌは宰相と意外と真面目に国政の話をしていた。
杯の進むペースはこのメンバーで最も早いが
酔った雰囲気はなかった。
ほのかな桃色に染まった肌が普段と違った色気を醸し出していた。

 誠一は仲間とこうして食べ騒ぐことが楽しかった。
「ああ、楽しいな」
誠一がぽつりと呟いた。それは誰に向けた言葉でもなく独白であった。
しかし、ヴェルはその言葉に反応した。
「おい、アル。なんだよう、急にどうしたんだよ。
おれはおまえといて、いつも楽しいぞ」

ヴェルの言葉はいつも表裏が無く直球だった。
だからこそ、誠一はその言葉通りに受け取った。

「アル、どうしたの?」
シエンナは心配そうであった。

「ごめんごめん、しんみりさせるつもりはなかったけど。
本当に何かひさしぶりに気が抜けたというか、
リラックスできた気がするよ」
次から次に求められる重い決断、本人も知らぬうちに心を蝕み、
疲れさせていたようだった。

「アルフレートさんは真面目過ぎなのです。
もっとうちの父のように周りに放り投げればいいのです」
ヴェルから誠一の話を聞いていたアミラが率直な感想を述べた。

「まあ、みんなには十分に助けられているけどね」

「もっと甘えてもいいわよ。なんていっても婚約者なんだから」
誠一の隣で身を寄せるキャロリーヌであった。
反対側では、シエンナが対抗心を燃やして、
恥ずかしさを押し殺して身を寄せていた。
何故か酒を呑んでいないのに真っ赤であった。

ヴェルが笑っていた。
歳上の二人の女性の行動を目の当たりにして、
何かを閃いたかのような表情でヴェルに抱き付いたアミラであった。
それを見たグロウが酒を盛大に噴いた。

宰相とロジェは苦笑いをしていた。
本当にヴェル、シエンナ、キャロリーヌ、ロジェに出会わなければ、
他の召喚者と同じように世界に絶望して、
闇堕ちしていただろうと思い、彼等との出会いに感謝していた。
彼らのとの出会いのきっかけは、リシェーヌであった。
彼女のがこの場にいないことに一抹の寂しさを感じつつ、
もしリシェーヌがいたら、席を巡ってどのような争いや暗躍が
あったことやらと思ってしまった。

これは少し自信過剰かなと思い、誠一は苦笑いをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩
ファンタジー
りこは気がつくと森の中にいた。 なぜ自分がそこにいたのか、ここが何処なのか何も覚えていなかった。 覚えているのは自分が「りこ」と言う名前だと言うこととと自分がいたのはこんな森では無いと言うことだけ。 他の記憶はぽっかりと抜けていた。 とりあえず誰か人がいるところに…と動こうとすると自分の体が小さいことに気がついた。 「あれ?自分ってこんなに小さかったっけ?」 思い出そうとするが頭が痛くなりそれ以上考えるなと言われているようだった。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...