上 下
378 / 846

373.打ち上げ3

しおりを挟む
 その夜、予定通りに打ち上げを行った。
何故かグロウと宰相がこの場に参加していた。
アミラがバツの悪そうな顔でヴェルの隣に座っていた。
普段、察しの悪いヴェルであったが、この時は直ぐに助け船を出した。
「いやー打ち上げはやはり人数が多い方が楽しくていいな。
それに宰相とグロウさんなら、言うまでもなく旨い差し入れが
あるでしょうしね」

宰相はにっこりしていたが、グロウはヴェルの言葉に
分かりやすく動揺していた。
グロウのうろたえる姿にアミラの顔が更に曇っていた。
それを見たヴェルも慌てていた。
察することはできたが、フォローはまだまだ、勉強が必要であった。

宰相はアミラの顔を見て、グロウに耳打ちをした。

「おっおう、ヴェルの言う通りだ。勿論、差し入れがあるぞ。
おい、女将、ここの一番高い酒と飲み物を持ってこい」
グロウの自信満々の表情にアミラがほっとした表情をしていた。

「そうじゃ、エドワード陛下もお越しになりたいようであったが、
近臣どもがうるさくてのう。秘蔵の逸品を預かってきた」
宰相は見るから高価そうな瓶を取り出した。

その行動を誠一は不思議そうに見つめていた。

「ふむ、練兵場の件はさして気にしておらぬ。
近臣どもに常に観察されておるのだ。
彼等の望む態度も時には必要なのだよ。そのための演技も必要じゃて」
尚も不思議そうな誠一に宰相は説明を続けた。

「あの件は、政治・軍事に大きく影響の少ない。
そういった場で意識を共有すれば、
それだけで阿諛追従の好きな貴族どもは無意識に満足するものなのだよ。
咄嗟にそれを判断し、演技することも王に必要な事。
無論、竜人が1人誕生することが最も重要なことではあったがのう」
誠一は何気なく尋ねた。
「彼は療養中ですか?」

「アルフレート君、君が知る必要はない。
彼から竜の魂は去った。それが全てだ。
それを気に悩む必要もない。
全ては戦場でのことである。彼の心が弱かったのだよ」

誠一には竜の魂云々は分からなかったが、
ザルバードにとってはあまり良いことではないと感じた。
それは話に割って入って来ないが、グロウとアミラの表情を
見ても分かった。

「それよりだ。アルフレート君、聡明な君の事だ。
ダンブル派がこの世界の覇権を握ると思っておらぬだろう。
もし君のその気があるならば、公国へ仕える口利きを
することもやぶさかではなのだがのう」

試されている。そう誠一は感じた。
常にこのご老体は、自分と言う人間を評価するための
ソースを収集しようといている。誠一は首を傾げながら、
笑って答えた。
「私は商人として、利益を追求するために
グレートウォールに赴くだけです。
それがどういう形であれ、売買で稼ぐだけですよ。
彼等との間に何らかの接点が生まれるとしても
それは利益のためです」

「おい、アルフレート。金勘定なんぞ、文官どもに任せておけばいい。
武人たる者、戦場で雄叫びをあげ、剣を振るえばそれでいい。
おまえも武人だろう、適当な者を雇えばいいだろうが」
どうもグロウは自分やヴェル、シエンナを魔術師として
見なしていないようであった。
誠一は、誤解を早めに解いておくべきだと感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

異世界に来たら粘土のミニチュアが本物になった。

枝豆@敦騎
ファンタジー
粘土細工が趣味の俺はある日突然、家ごと見知らぬ世界に飛ばされる。 そこで自分が趣味で作る粘土のミニチュアが本物に実体化することを知る、しかもミニチュアフードは実体化後に食べると怪我が治ったり元気になったりする不思議な効果付き。 不思議な力を使って異世界で大富豪に!!……なんて、俺には向かない。 ただひっそりと趣味の粘土を楽しんで生きて行ければそれで満足だからな。 魔法もチートスキルもない異世界でただひたすら趣味に生きる男、ニロのお話。 ※作中ではミニチュアフードが実体化し、食べられるようになっていますが実際のミニチュアフードはどんなに美味しそうでも絶対に食べないで下さい。 見返したら投稿時のバグなのか文字化けが所々……気が付いたら直していきます。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜

ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。 年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。 そんな彼女の癒しは3匹のペット達。 シベリアンハスキーのコロ。 カナリアのカナ。 キバラガメのキィ。 犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。 ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。 挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。 アイラもペット達も焼け死んでしまう。 それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。 何故かペット達がチートな力を持って…。 アイラは只の幼女になって…。 そんな彼女達のほのぼの異世界生活。 テイマー物 第3弾。 カクヨムでも公開中。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...