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370.交渉6
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「ぬりゃぁ!どりゃあ、そりゃあ」
ジェイコブは剣を振り回すが、誠一には全く掠りもしなかった。
そのうち剣の熱と激しい運動が相まって、
ジェイコブはばててしまったようであった。
「はあはぁ、小賢しい。ふうぅ、暑い。
どうらやお互いに気力・体力の限界までやり合ったようだ。
ふううぅ、この件は引き分けとしよではないか」
ジェイコブは自分の許せる妥協点を見出したようだった。
しかし、誠一はそれに付き合う気は全くなかった。
完全に動きの鈍ったジェイコブへ幾度も蹴りを見舞った。
魔術の施された鎧に守られて、ジェイコブにダメージは
全くなかったが、都度、よろけて態勢を立て直していた。
その繰り返しが更に体力を彼から奪った。
何度も繰り返された挙句、とうとうジェイコブは、
地面に座り込んでしまった。
「さてと、仕上げといきますか」
誠一が殊更、顔を歪めた。
なまじっか整った顔立ちのためジェイコブはその表情が恐ろしかった。
「参った。参った、降参だ」
ジェイコブの言葉に誠一はにっこり笑って、応じた。
「人の婚約者にちょっかいを出すのは少々、頂けません。
今後は、やめて頂きたい」
気力・体力の限界を迎えていたジェイコブは、
誠一の言葉に頷くだけだった。
そして、そのまま大の字に地面へ突っ伏してしまった。
ジェイコブは取り巻き達に担がれて、屋敷に戻っていった。
取り残された誠一たちの前に先程、補足説明をした使用人が現れた。
「申し訳ございません。
ジェイコブ様は、ダンブル陛下の名代としての矜持が
高すぎたのでしょう。
彼のものを使わしたのは、陛下に連なる縁者のためです。
どうか我ら陣営のアルフレート様への期待の表れと
どうか受け取って頂けないでしょうか?
以後、私、バラムが交渉に当たらせて頂きます」
もう少しましな縁者がいなかったのだろうかと、
誠一は改めて思ってしまった。
若さゆえかすました表情に一瞬だが、それが表れてしまった。
それを見逃すほどバラムの能力は低くなかった。
「旗幟を鮮明にせぬ日和見主義の者たちが多く、
陛下も難渋しておられます」
バラムの言葉で誠一は察することができた。
「いかなる事情がありましょうともアルフレート様にとって、
悪い話ではないかと。交渉を続けさせて頂けないでしょうか?」
「本来はエスターライヒ家の兵団を率いて、
入城して欲しいのでしょうが、私にはそれほどの人望はありませんよ」
誠一の意見にバラムは即答した。
「アルフレート様に兵を率いて入城して頂ければと。
後は人々が色々と脚色をして風と共に広めてくれるのでご心配無用です」
なるほどね、誠一はそこまでは思い至らなかった。
適当に数を揃えて入城すれば、後はバラムのような密偵が
虚実を混ぜ合わせて、様々な噂を流布するだろう。
「わかりました。交渉には応じます。
もう昼時なので、今日はここまでとしましょう。
今後は、宿の方へ来てください」
有無を言わせないように誠一は強く言ったが、
バラムはあっさりと了解した。
明日以降の交渉について話すと、
誠一たちは昼食も取らずにさっさと屋敷を後にした。
ジェイコブは剣を振り回すが、誠一には全く掠りもしなかった。
そのうち剣の熱と激しい運動が相まって、
ジェイコブはばててしまったようであった。
「はあはぁ、小賢しい。ふうぅ、暑い。
どうらやお互いに気力・体力の限界までやり合ったようだ。
ふううぅ、この件は引き分けとしよではないか」
ジェイコブは自分の許せる妥協点を見出したようだった。
しかし、誠一はそれに付き合う気は全くなかった。
完全に動きの鈍ったジェイコブへ幾度も蹴りを見舞った。
魔術の施された鎧に守られて、ジェイコブにダメージは
全くなかったが、都度、よろけて態勢を立て直していた。
その繰り返しが更に体力を彼から奪った。
何度も繰り返された挙句、とうとうジェイコブは、
地面に座り込んでしまった。
「さてと、仕上げといきますか」
誠一が殊更、顔を歪めた。
なまじっか整った顔立ちのためジェイコブはその表情が恐ろしかった。
「参った。参った、降参だ」
ジェイコブの言葉に誠一はにっこり笑って、応じた。
「人の婚約者にちょっかいを出すのは少々、頂けません。
今後は、やめて頂きたい」
気力・体力の限界を迎えていたジェイコブは、
誠一の言葉に頷くだけだった。
そして、そのまま大の字に地面へ突っ伏してしまった。
ジェイコブは取り巻き達に担がれて、屋敷に戻っていった。
取り残された誠一たちの前に先程、補足説明をした使用人が現れた。
「申し訳ございません。
ジェイコブ様は、ダンブル陛下の名代としての矜持が
高すぎたのでしょう。
彼のものを使わしたのは、陛下に連なる縁者のためです。
どうか我ら陣営のアルフレート様への期待の表れと
どうか受け取って頂けないでしょうか?
以後、私、バラムが交渉に当たらせて頂きます」
もう少しましな縁者がいなかったのだろうかと、
誠一は改めて思ってしまった。
若さゆえかすました表情に一瞬だが、それが表れてしまった。
それを見逃すほどバラムの能力は低くなかった。
「旗幟を鮮明にせぬ日和見主義の者たちが多く、
陛下も難渋しておられます」
バラムの言葉で誠一は察することができた。
「いかなる事情がありましょうともアルフレート様にとって、
悪い話ではないかと。交渉を続けさせて頂けないでしょうか?」
「本来はエスターライヒ家の兵団を率いて、
入城して欲しいのでしょうが、私にはそれほどの人望はありませんよ」
誠一の意見にバラムは即答した。
「アルフレート様に兵を率いて入城して頂ければと。
後は人々が色々と脚色をして風と共に広めてくれるのでご心配無用です」
なるほどね、誠一はそこまでは思い至らなかった。
適当に数を揃えて入城すれば、後はバラムのような密偵が
虚実を混ぜ合わせて、様々な噂を流布するだろう。
「わかりました。交渉には応じます。
もう昼時なので、今日はここまでとしましょう。
今後は、宿の方へ来てください」
有無を言わせないように誠一は強く言ったが、
バラムはあっさりと了解した。
明日以降の交渉について話すと、
誠一たちは昼食も取らずにさっさと屋敷を後にした。
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