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369.交渉5

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誠一はため息をついて、木剣を構えた。
開始の合図と共に先ほどとは比較にならない速度で
ジェイコブが動き、剣を振るった。
しかし、その動きには、少しも剣技を真剣に学んだ足跡は
感じられなかった。
誠一は苦も無く躱し続けた。市井の人々にとっては、
その膂力で振り回される剣は脅威に映るだろうが、
誠一にとっては然したる脅威にはなり得なかった。

「エアパレット」

空気の塊がジェイコブを襲った。
魔術自体が発動したことに驚いた表情であったが、
避けるような素振りもなく誠一目がけて盾を突き出して
突進してきた。
ジェイコブに当たる直前で空気の塊は雲散霧消してしまった。

「なっ、ファイアー」

「くっウオーターボール」

結果は変わらずであった。誠一は一旦、大きく距離をとった。

「魔術師にしては、中々、良い動きをしよる。
それに如何なる方法なのか魔術も発動させるとは、優秀なだけはある」
先程と違って、息も上がらず余裕綽々のジェイコブであった。

「ジェイコブ様、血です。彼奴は、袖口かどこかに血を浸して、
杖の代わりとしているのです」
お抱えの魔術師が叫んでいた。

「侵入する万物の全てをここで焼き尽くせ、フレイムウォール」
ジェイコブの前に炎の壁が展開されていた。

「無駄な事を。降参するなら、痛い思いはしなくて済むものを」
ジェイコブは眼前の炎に盾を突き出して、近づいた。
炎は綺麗さっぱり消失した。

誠一の愕然とした表情がジェイコブの嗜虐心を刺激した。
滅多にお目にかかれぬ黄金の髪の美青年をもっと歪ませたい、
ジェイコブは己の欲望に忠実に従った。
のっしのっしと威圧するようにジェイコブが
誠一に向かって歩き始めた。同時に誠一も動いた。
全速力でジェイコブの側面に回り込み、タックルをした。
突然のことに対応できずにそのまま、
ころんとジェイコブは倒れてしまった。
そして、そのまま誠一はジェイコブに馬乗りになった。
頬を殴るのもどうかと思ったために
後で難癖を付けられないように2度3度と引っ叩いた。

「ひえっ、痛っ」
痛めつけることは得意そうであったが、
痛めつけられることには慣れていないようであった。
「痛い、痛い。もうやめてくれ」
誠一はこれを降参と受け取り、ジェイコブから離れた。

立ち上がったジェイコブは、憤怒の形相であった。
「貴様、調子に乗り過ぎだ。ただじゃ済まさない」
剣を構えるジェイコブ。

「ジェイコブ様、先ほど、もうやめてくれと言われたかと」

「あああん、言ったがどうした?降参したとは言ってないよなぁ。
お前が勝手に離れただけだろ」

その屁理屈に誠一は、呆れてしまった。
ロジェやキャロリーヌの方を見ると、同じように感じているようで、
徹底的にやっちまえとサインを出していた。

ジェイコブは、口上の割には動かなかった。
誠一は怪しみ、取り巻きの連中を注視した。
するとジェイコブのお抱えの魔術師が攻撃魔術を唱えていた。
「フハハハハハ、アルフレート!火傷じゃ済まないぞ」
額に汗を流しながら、灼熱色に変わった剣を掲げて、
勝利を確信するジェイコブであった。
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