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342.竜公国22

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「随分と楽しませてくれるじぇねーかよ。
此処まで鱗を傷つけられたのは本当に久々だ」

薄く削られた鱗が宙を舞い落ちていた。
ほんとに表面を薄く削っただけであった。

「褒美に竜人たる者の技を一つ、披露してやろう。死んでも知らぬがな」

グロウは両手を大きく開いた。手の爪が鈍く光っていた。
それが誠一たちに不吉な印象を与えた。

「竜爪乱撃破」
グロウが技を放とうとした時、練兵場の外から、
凄まじい怒声と叱責の声が聞えて来た。

「止めんか、馬鹿者。我が竜公国の客人を殺す気か」

大音量の野太い声からは想像もできないほどのよろよろの老人が現れた。

「げっ、宰相。何故ここに?」
宰相の姿を見ると急に慌てふためくグロウであった。

「まったく力だけなく、頭も鍛えろと
儂に何度言わせれば気が済むのだ」
宰相はグロウを叱責しつつも彼の視線は誠一たちを
捉えて離さなかった。
その視線は、誠一たちを値踏みしているようであった。

「今、宿泊しているホテルは、この国を出立するまで
利用して貰って構わない。
ただし、公国でもっとも格式の高いホテルゆえに
そこでの面会には制限をかけさせて貰う。
それと貴公らが売ろうとしている商品は
市場価格の2倍で全て買い取ろう。それで良いかな?」

ヴェルは満足気な表情であった。
ロジェの表情からは、今の言葉からどのような印象を
受けたか読み取れなかった。グロウはどうにも不満げであった。
突然、現れた宰相はにやにやとしているだけであった。
好々爺とはかけ離れた印象しか誠一は受けなかった。
自分への値踏みは続いているのだろう。
誠一は、一言一言、一挙手一投足が自分を値踏みするための
材料となっていることをひしひしと感じていた。

「ありがとうございます。
我々の商品を買い上げて頂けることは助かりますので、
よろしくお願いいたします。目録は後日、お渡しいたします。
宿泊に関しましては、明後日まで利用させて頂きます。
その後は、分相応の宿泊施設に移ります」

宰相はにこにこしながら、誠一の言葉を受けいれた。
誠一は頭を深々と下げて、お礼を伝えると、
ヴェルとロジェを伴って、シエンナたちのいる部屋に向かった。

変わらずにやにやとしている宰相が、グロウに尋ねた。
「先ほどのエスターライヒ家の小僧の提案をグロウよ、どう受け取る?」

「商品は全部売れて、しかも売り上げ二倍。
万々歳だろ。くそっ口惜しい!
ホテルはあれだ、落ち着かないんだろ。
あそこじゃなあ、俺も二日くらいでもういいわってなるな」

どや顔で答えるグロウに宰相のにやにとしていた表情が崩れた。
「お前は一体。少しは学べ、表裏を読め。
あの小僧もだが、エンゲルス家の長男坊の中々だな」

「いや、あいつは大したことないぞ。
俺が本気なら1分もたずにあの世、行きだ。
まだ、弟の方が将来性を感じる」

宰相の表情からに疲れが見て取れた。
「あの男、小僧の成長を促して、助言を控えておったわ。
儂との駆け引きを経験させるためにな。
そして、小僧は満点とは言えぬまでも中々な選択をしたわ」

グロウはポカンとしていた。

「ふーむ、恐らく小僧は全ての商品は売らないだろうな。
売買を通じて、市場に伝手を作る気だろう。
そして、そこそこの日数をあのホテルに泊まるは、
我が公国とのそれなりの接点があることを
アピールするつもりだろうよ。
安ホテルに移るのは、公国随一のホテルの敷居を跨げない者たちと
接触を図りたいからであろうな。
ふん、売り物全てを我らに売り払って、大人しくあそこへ宿泊しておれば、
行動も制限できるうえに監視も容易であったものを。
中々に強かな小僧だ」

グロウは宰相の説明に途中から頭を抱えていた。
誠一の慧眼に頭を抱えたのでなく、宰相の説明に
途中からついていけなくなり、頭痛がし始めたからであった。
公国最強の一角のそんな姿に宰相も頭を抱えていた。
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