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337.竜公国17

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誠一は、この場でシエンナの能力が上がるならと思い、
意を決して絶叫した。
「シエンナ、君を一人の女性として受け入れる」

エドワードの付近を中心に嘲笑が起こった。
唯一、エドワードのみが誠一を睨みつけていた。

誠一の左手に凄まじい痛みが走った。
隣に座るキャロリーヌが思いっきりつねっていた。
一度は収まった笑いが今度は、哄笑となった。

シエンナの動きが格段によくなっていた。
最早、長槍が彼女を捉えることはなかった。

ヴェルが感嘆の声をあげた。
「おいおいおい、俺やアルならまだしも
シエンナは純然たる魔術師だぞ。
あの動きはあり得ないだろう。アル、一体何をしたんだよ」
『絆の仲間』は消えたようだが、『押しかけ女房』、『貧乏くじ』の
発動による能力の向上、二つの相乗効果が格段に能力を
上昇させているようだった。
誠一は、自分ほどでは無いにしろ、暫くシエンナは激痛に
悩まされるなと思った。

ザルバードの能力も相当なものなのだろう。
シエンナは防戦一方で攻撃に転じることができなかった。
そして、シエンナは呪詛でも唱えているのか何かぶつぶつと
呟いていた。
業を煮やしたザルバードは、一撃でシエンナを屠るべく、
空高く舞い上がった。竜騎士によるチャージと全く同じことを
実行しようとしていた。

「馬鹿が。あのままなら、勝てたものを。
所詮、馬鹿がどんなに力をつけようとも無駄な事か」
エドワードが底冷えするような声で呟いた。
周囲の者たちは一瞬、ぎょっとしたが、
空高く舞うザルバードを見上げると、
どうにもザルバードが負けるとは思えなかった。
常人の目には捉えられぬ程の速さで舞い降り、
練兵場に立つあの生意気な小娘を串刺しにする未来しか想像できなかった。

ザルバードが舞い降りた。空気と同化したのかのように
彼の姿が見えなかった。彼の周りの空気が歪んでいた。
それを地上の人間が認識した時、既にそこに彼はいなかった。

 迎え撃つシエンナは、杖を掲げて何かを唱えるだけで、
何の防御魔術も唱えていなかった。
竜公国の観戦者たちは、こいつ死んだなと瞬時に思った。
竜人の大いなる一撃が愚かな娘に下ろうとしていた。
しかし、残りわずかのところでザルバードが舞い降りるというより、
長槍を落として、落下した。そのままの勢いで地面に激突した。
ぐしゃりと嫌な音が聞えた後、ザルバードは、全く動かなかった。
竜公国の観戦者たちには一体、何が起きたのか理解できなかった。
単にザルバードが自滅したようにしか映らなかった。

「私は生粋の魔術師だから。
魔術を用いて勝利するのは当たり前でしょう」
勝ち名乗りとも思える言葉をエドワードと竜公国の観戦者たちに
向かって言った。
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