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327.竜公国7

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使用人が茶を配膳するが、何かと客人より
王を優先しようとして、都度、叱責を受けていた。
誠一たちはそのやり取りを笑う訳にいかず、
頬が緩まるに留まるよう努力した。

最初の印象と随分と違うグロウを誠一はポンコツ認定していた。

しばしの歓談の後、誠一の方から本題を切り出した。
「エドワード様、如何なるご用件で
非公式のこの場を設けたのでしょうか?」

「そうだな、それだ。大陸中に響き渡る剣豪オニヤを
見てみたかったし、俺より強いかどうか知りたかった」

「王が野良武士などに後れを取ることなどありませぬ」
グロウの言葉を否定する訳でもなく、
エドワードは不敵な笑みを浮かべた。
武勇に絶大な自信があることは見てとれた。

「ふん、護衛などグロウ一人いれば十分だ。
城の爺どものせいで護衛を伴わないと城を出れなくてな」
誠一たちの疑問を先読みして答えるエドワードであった。
国の頂点に立つ者として、武勇だけでなく、
人の機微を窺うことにも優れていそうであった。

「まっ、それは単なる俺の個人的な感情だ。
おまえらはダンブル派に付く気か。
かといってヴェルトール王国の有数の貴族の長子に
間諜をさせるとは思えん」

不敵な笑みを浮かべると、唇から白い歯が覗いた。

もともとレドリアン導師との確執から始まったこの騒動を
どう説明すべきか、誠一はどう説明したものかと思案した。
誠一に答えを委ねているのか他の面々は、黙っていた。
「無論、エスターライヒ家を継ぐべきは私です。
落ち度のない私が弟に拝跪する必要はない」

「嘘だな。貴様からその野心は感じない。
かといって取り巻きの連中に担がれているようでもないな」
即断したエドワードだった。

誠一は圧倒されて、次の言葉を繋ぐことができなかった。
何とか取り繕うとした誠一の次の言葉はエドワードにより遮られた。
「体裁を取り繕ろわずともその表情が全てを物語っている。
ここではいいが、グレートウォールでそれではすぐに捕縛されるぞ。
まあな、この国に居る限り余程のことがない限りは、
おまえらの行動へ特に制限はかけない」
エドワードはさも可笑しそうしていた。

「ご忠告、ありがとうございます」
誠一は頭を下げた。

「それとだ。これはグロウからの依頼か、願い事になるのかな。
お前らがここに来るまでに見た罪人の男と決闘をしてくれ」
エドワードは真剣であった。誠一はエドワードの次の言葉を待った。
「あのまま罪人として逝くにはな、あの男の魂が浮かばれぬ。
戦場でのことだ、断ってくれてもかまわぬ」

誠一はまたも即答できなかった。
どうにも答えにくことばかり聞かれる日だと思った。
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