上 下
320 / 830

316.IFの世界編 誠一の選択肢2

しおりを挟む
がさっがさっ、明け方、木の枝を掻き分ける音が微かに聞えた。
誠一は慌てて起きると周囲を観察したが、何も見当たらなかった。
しかし、音は次第に大きくなっていった。

 誠一は身を顰め、息を殺した。
音は次第に大きくなり、また、小さくなっていった。
音の消えていく方には確か洞窟があった。
恐らく冒険者が依頼を受けて、小鬼の討伐に向かったのだろう。
しばらくすると派手な爆音と叫び声、怒号が聞えて来た。
会敵すれば、確実に殺されると思い、その場を去ろうとした。

『観察しろ。今の状況を観察しろ』
脳に逆ら得難い声が聞えた。誠一は愕然とした。
魔物もプレーヤーがつくことが出来るとは知らなかった。

「ぐっ」
誠一にはこの命令に逆らう術はなかった。
慎重に移動して、彼等を観察した。

小鬼たちと冒険者たちの実力には冠絶した差があるようであった。
冒険者たちは無傷で小鬼を殺していた。
洞窟の入り口に立ち塞がるように冒険者たちは展開しており、
這いだす小鬼を確実に仕留めていた。
かなり遠目から観察していたにも関わらず、
弓兵の女性と視線が交錯した。
咄嗟に誠一は這いつくばり姿を隠した。
一本の矢が誠一の頭上を通過して、木に刺さった。

「やばい、見つかった。逃げなきゃ」
這いずりながら、洞窟から離れようとした。
プレーヤーの声は聞こえなかった。

逃げながら、冒険者たちの方へ目を向けると、
黒いローブを羽織った魔術師から巨大な水球が洞窟に放り込まれていた。
その水圧に耐えられずに洞窟は崩れ落ちた。
金髪の騎士風の青年が剣をこちらに向けていた。
槍の様なものを持った男が頷くと、こちらに向かってきた。
それは逃げることは敵わぬ速度であった。
何とか隠れてやり過ごすしかなかった。

兎に角、身を隠すために誠一は這いまわった。
誠一が動くたびにかさかさ、枯れ木の擦れ合う音がしていた。

「おいおい、待てよ。
魔物とはいえ、仲間を犠牲に逃げるのはちょっと、ださいぞ」

「んんっ。ガキか、まだ、俺らの言葉は理解できないな」

その声、その姿、その武具に誠一は見覚えがあった。
その成長した姿に誠一の知る面影があった。
もしかして、転生した先は数年が過ぎているのかもしれない。

「アルの希望だ。お前は捕獲するが、抵抗するなよ。
無用に四肢は落としたくないだろう」

その言葉に誠一は疑問を感じた。
なぜ、自分だけ?なぜ、ここが分かった?なぜ、なぜ、どうして?
無限に湧く同じような疑問に答えが返ってくる訳もなかったが、
無意識に言葉が出ていた。

「ヴェル、何故?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...