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313.奥殿9

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「はいはい、魔術院の首席様には口じゃかないませんから」

ヴェルの言葉にサリナが目を丸くしていた。
「首席!ヴェルトール王国の魔術院で首席って、あなた、凄すぎ」

サリナの驚きにまるで自分が褒められたように
ヴェルが誇らしげに話し始めた。
「あくまでも総合でだからな。ちなみにシエンナは次席だぞ」

「そっそうなんだ。
それでヴェル、あなたは?もしかして、三席とかなの」

矛先を向けられたヴェルが目が泳ぎ、少し挙動不審になっていた。
「おっ俺はそういった席次に興味ないからよ。
だがな『解体・選別、保管の実技』において、
他の追従を許さぬ断トツの一位だったぞ」
サリナの反応はいまいちであった。
ヴェルは何とかこの凄さをサリナに分かって貰おうと、
中等部の昇級試験についての説明を懇切丁寧にしていたが、
どうにも上手く伝わっていないようだった。
 
ヴェルの話を聞いて、誠一は魔術院のことを思い出していた。
ほんの少し前まで学院の生徒であったことが随分と懐かしく感じられた。
そして、随分とリシェーヌに会っていないような気がした。
次々に起こる出来事のためにリシェーヌへ思いを馳せることがなかった。

 誠一は、瞳を閉じて彼女の名を思い浮かべると、
クリスタルに封印された色褪せぬ彼女の姿を
まだ鮮明に思い出すことができた。
そこには下劣な思いはなく、ただの懐かしさだけでなく、
胸を締め付けられるような思いが誠一に去来した。
そして、その思いが無意識に言葉を誠一へ紡がせた。

「ああ、リシェーヌに会いたいな」

「え、リシェーヌって誰」
サリナの素朴な疑問をヴェルが制すると、誠一と肩を組んだ。

「飯だ飯!アル、サリナ、良い匂いがしてくる。飯にしよう」
ヴェルの気遣いに誠一は感謝した。
そして、そのことは、ヴェルが精神的に成長していることを
誠一に感じさせた。
果たして、あの孤独な環境でリシェーヌは
成長しているのだろうか、それともクリスタルから解放された時に
はじめて、彼女の刻は動き出すのだろうか、誠一には分からなかった。

もしあの時、剣豪の選択した『New game』を押していれば、
やり直しができたのかもしれない。
そうすればリシェーヌの今を覆すことができたのかもしれない。
『Continue』を選択した以上、仮定のこと考えても仕方ない。

リシェーヌを解放するにはエリクサーを入手するのみと
誠一は、決意を改めて固めた。
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