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312.奥殿8

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「よしっ!アル、話は決まったな。
竜公国に向けて出発しよう!
道中で魔物を狩って、魔石を集めて、遺跡や迷宮を攻略して宝物を集めて、
商品を充実させてから、商人に扮する準備だ」
ヴェルが威勢よく声高らかに宣言した。

「ちょっと、ヴェルって、落ち着きなさい。
もう先生はいないのよ。
慎重に慎重を重ねないと取り返しのつかないことになるから」
いつものことだが、ヴェルにシエンナが釘を刺した。
ヴェルが不満そうであったが、誠一はシエンナの指摘は最もだと思った。

最終的に剣豪が同行していれば、どんな敵と会敵しても
生き残れるような気がしていた。
多分、それは甘えであり、油断に繋がることであった。
自分の実力に比して、強大な敵や難度の高い迷宮を
何とか出来ると錯覚する恐れがあった。
それが慢心に繋がれば、死の足音は限りなく誠一たちに近づくであろう。

「威勢が良いのも大切だし、慎重を期すこともの重要だけど、
取り敢えず身体を休めよう。
そして、明日からの旅路に備えよう。ここは少なくとも安全だしね」
誠一は二人の意見を上手く汲んで纏めると、
ロジェが頷いて、誠一の言葉を後押しした。

「まー今日は夜警なしね。ぐっすりと寝られそうね。
さてと食事の支度でもはじめますね、旦那様」
先程までぐったりしていたとは思えないくらいの勢いで
荷車の方へ向かうキャロリーヌだった。

「くっ、負けてられない。アル、私も何か作るから食べてね」
誠一の胃袋を掴もうとキャロリーヌとシエンナの争いは
どこまでもヒートアップしているようだった。

「じゃ私も何か作ろうか?」
サリナが二人に便乗して、悪ノリしていた。誠一は頭を抱えた。
「頼むから、これ以上、厄介事を増やさないくれ」

「なあ、アル。先生のあれって最後の鍛錬のつもりだったのかな」
ヴェルが声のトーンを落としてしんみりと言った。

「さあ、それは誰にもわからないよ。
『信じるも信じないも己自身の決める事、己の選択肢を信じて進みなされ』
って指南書が結ばれていただろ、ヴェルの受け止め方次第だよ」
恐らく剣豪は誠一の奥殿で結果を見て、
それがどのような結末を迎えようとも
去るつもりだったのではないかと思った。
剣豪がこの地へ誘ったとは思えないが、似たような状況になれば、
去るつもりで準備はしていたのだろう。

「ったくアルはいつもそうだよな。
明確な答えを出さずに考えさせる。
どんだけ厳しいんだよ」

「同じ年齢でしょ!
まるで僕が試すような言い方をしないでくれよ」
ヴェルの愚痴に咄嗟に反論する誠一だった。
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