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306.奥殿2

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「ふむ、口が開ける程度には回復したようでござるな」
腰を上げた剣豪は、漆黒のマントを誠一から脱がせて、
脇に置いた。
剣豪は一の刀を引き抜き、瞬時に誠一の服を切り裂いた。
裸になった誠一は、おぞましい感情に囚われた。

「やめろっ!僕にはそんな趣味はない。
そんなことになるくらいなら、此処で死ぬ」

びちゃびちゃと誠一は満遍なく、全身に水をかけられた。
手拭いが放り投げられてきた。
いまだに全身に痛みや軋みを感じるが随分と和らいでいた。

「身体を拭いなさい。そしたら、この浴衣を着なさい。
まあ、着方は分かるでしょう」

何とか立ち上がり全身を拭い、最後に尻と逸物を拭いた。
誠一は何でも出てくる剣豪の小袋に感心してしまい、
つい凝視してしまった。

「これはあげませぬ。
神の世界で言う7万円の課金で得たものだそうです。
7万円が神の世界で如何なる価値か分かりませぬが、
貴重な道具であることには違いがないでござる。
代わりと言っては何ですが、その手拭いは差し上げます。
それもかなりの価値あるものです」
柄には家紋が描かれており、確かに価値がありそうであった。
しかし、汗と糞尿に塗れてしまい、どうにも洗ってまで
持っておく気にはなれなかった。

それを察したのか、剣豪が釘を刺した。
「東方の島国でそれを見せれば、ある程度の融通が利きます。
洗って干しておけば、問題ござらぬ」
誠一は剣豪の好意に取り敢えず頷き、
手拭いを折りたたむと漆黒のマントの側の地面に置いた。

「さてさて、そろそろこの庵に入りますかな。
鬼が出るか蛇が出るか楽しみですな」
剣豪の楽し気な表情を見て、碌な事しか起きない予感で
誠一は一杯だった。

障子を開けて、部屋の中を覗く剣豪。
その動作に一切の迷いは感じられてなかった。
何か起きるか出てくるかとドキドキしていた
自分が馬鹿に思えていた。

室内は、畳が敷いてあった。
何年も空気の入れ替えがされていなかったのか、
埃ぽくかび臭かった。
何年も畳は干されていないのか、湿気を吸い込んで
ジメジメブヨブヨしていた。
無数のダニが良そうで裸足で歩く気が全くしなかった。
室内の惨状に剣豪は眉を顰めた。
意外と出自が良さげな剣豪にとって、
この状況は許容しがたいのだろうと誠一は思った。

「アルフレート様、動けますな」
剣豪が念押しした。

「いや、無理ですよ。この中を歩くのは無理ですよ」
何とか歩けなくもないが倒れた瞬間、
ダニまみれになりそうで絶対に歩きたくなかった。

「流石に畳は持ち合わせてござらぬ。如何したものか」

小袋から畳が出てきたら、それこそあり得ないと
誠一は心の中で突っ込んだ。
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