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290.旅路8
しおりを挟む「この地を血で汚すこと好まぬが、この地の平穏を乱すのならば、物言わぬ骸となって貰おう」
右手に持つ箒はいつの間にか錫杖となっていた。天狗が地面を何気なく錫杖で突くと、地は恐ろしく揺れた。天狗の目はどこを見つめているのか誠一たちには分からなかったが、天狗の顔は剣豪たちのいる方を向いていた。徐に羽根を広げると天狗は剣豪たちの方へ向かって飛翔した。
「何なんだよ一体?アル、どうする?」
「戻ろう!先生は良いとしてもキャロリーヌとサリナが心配だろ」
誠一の一声で他のメンバーは急ぎ、神殿に向かって走り出した。
誠一たちが探索に出た後、残った剣豪たちは境内を調べ始めた。剣豪が普段見られない程、真剣に周囲を調べていた。
「ふむ、これは中々、よく再現されていますな。我が故郷と何ら遜色ない出来です。しかも格式・格調高き造りです。二人ともよく見ておきなさい。木造建築としては最上級の作でしょうな。周囲との調和も素晴らしい」
手放しに誉める剣豪であった。
「さて、感傷に浸っていても現状、何の解決になりませぬ。ご神体がどこかにあるでしょう。それを叩き壊せば、ここは崩壊するでしょう。至極、残念ですが、仕方ありません。馬と荷車を庭に移動させてなさい」
少し寂しそうで名残惜しそうな剣豪であったが、大太刀を鞘から引き抜いた。神殿からスロープを通って境内にサリナとキャロリーヌは移動した。
神殿の奥に向かって、剣豪が大きく叩き割るように大太刀を振り切った。木壁は派手な音と共に一撃で破壊されていた。その奥は薄暗かった。石が敷き詰められた急こう配の階段があり、奥に続いていた。
「奥殿ですかな。それとも本殿に繋がる道でござろうか?」
剣豪は一人心地であった。キャロリーヌとサリナは全く理解が及ばないためにただただ、剣豪の言葉をきくだけだった。
「この地より神託の巫女が去って久しい。何用だ?」
突然、後方から声がした。キャロリーヌとサリナは気配を察知できずに慌てて、得物を構えた。そして、その存在を目にした瞬間、唖然とした。
「鳥人!」
剣豪は、既にその存在に気づいていたのか、慌てずにゆっくりと振り向いた。
「小天狗。またの名を烏天狗という。我が故郷由来の山の神か物の怪でござるよ」
「サリナ、戦いになったら、後方に下って、防御に徹しなさい。あなたも上位魔人と相まみえたことがあるなら、分かるでしょう」
尋常ならざる圧力を目の前の化け物からサリナも感じていた。その圧力は北関で倒された上位魔人を凌いでいた。自分の実力では足手まといどころか、瞬殺されることは肌で感じていた。
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