上 下
284 / 888

284.旅路2

しおりを挟む
「アルフレート様、ご武運を」
二人の男が誠一に向けて敬礼をした。
鎧に施された意匠からテルトリア騎士団の者であることが
誠一には分かった。誠一は頷いて馬車に乗り込んだ。

「ヴェル、ライトは解除して。私が先行の騎馬にライトを展開するよ。
ヴェルは馬車に灯す明りで対処して」
シエンナはライトの魔術をロジェとキャロリーヌの前方に展開した。

珍しく剣豪は働いていた。
馬車の四隅にあるランプにすばやく炎を灯していた。
しかし、当然の如くその仕事が終わったら、
荷車の中で外套に包まり眠り始めた。
サリナは自分に何か出来る事はないか探していたが、
シエンナの言葉に従い、大人しく外套に包まった。
「サリナ、あなたは怪我の具合が悪すぎる。
ここまで来るのも大変だったでしょ。身体を休めることが仕事よ。
逆に荷車の中でおろおろされるとこっちが集中できな」

誠一も最もだと思った。サリナが大人しく従ったために
誠一は動き出したロジェたちの後を追うべく馬に指示を与えた。

「うーむ、運搬用故に寝心地がよろしくないでござる。
町で馬車へ魔術の付与が必要ですな、アルフレート様」
馬車の揺れが気になるのか、寝れずにいる剣豪が
四六時中、誠一に話かけてきた。
適当にあしらう誠一だった。暗闇を走るだけでも
相当な緊張を強いられている誠一にとって、
剣豪の愚痴に付き合っている余裕はなかった。
 
「ところでアル、竜公国へとグレートウォールには、
どのように入国するつもりなの?」
シエンナの問いについて、幾つかの案を誠一は既に考えていた。
「そうだね、幾つか候補があるけど、どうすべきか迷っている。
このまま亡命という手もあるし、身分を偽って傭兵として志願、
それとも商人として潜り込むか」

「うーんうーん、難しい選択よね」
シエンナも迷っているようだった。
「亡命はおそらくダンブルが好待遇で僕らを迎え入れて、
大々的に宣伝するだろうね。
中立派の取り込みに利用されるけど、中枢の情報を得やすいかもしれない」

誠一の説明にシエンナが頷いた。
「監視されやすい立場にいるし、
バレたら、逃げ切れそうにないわね」

誠一が苦笑した。
「冒険者証を使って、傭兵として潜入するのもありだね。
それだと中枢に喰い込むための戦功を挙げるのに
時間がかかるかもしれない。
傭兵たちの噂話も馬鹿にはできないけど、
情報の精度はかなり落ちるのが難点かな」

誠一の説明にまたしてもシエンナが頷いた。
「危険を感じて、ふらっと消えても大丈夫そうだし、
攪乱のための偽情報を流したりするのにはいいかもしれないね」

誠一はまたしても苦笑した。
「ある程度の自由があって、攪乱工作もそれとなく出来る上に
扱う商品次第では、ダンブル派の貴族たちに
取り入ることもできそうな商人が良いのかな」

誠一の説明にシエンナが小首を傾げた。
「うーん、そうなんだけど。
商人ギルドに入会して間もないと疑われるし、
貴族の喜びそうなラインナップとなると、それなりの資金が必要よね。
アル、それらがあるの?」

荷車から剣豪の声が聞えて来た。
暇なので話に混ざりたいのだろうと誠一は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた
ファンタジー
 起きると、そこは森の中。パニックになって、 周りを見渡すと暗くてなんも見えない。  特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。 誰か助けて。 遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。 これって、やばいんじゃない。

最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。 そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた―― 「……いや草」

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【アルファポリスHOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 --- 【23:50頃更新】  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると励みになります! ※一次選考通過していたのでタイトル戻しました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...