252 / 887
254.出陣14
しおりを挟む
二人は誠一から少し離れた場所で魔物を狩っていた。
誠一の側には、座り込んで動かない剣士の娘しかいなかった。
彼女を守りながら誠一は話し掛けた。
「動けそう?」
言葉に反応しているようだったが、答えることはなかった。
「多分、魔物たちは、ヴェルトール王国軍によって
駆逐されるか逃散すると思う。
まだまだ、危険だから立てるなら、立って戦ってほしい」
きついことを言っていることは誠一も重々、
承知していたが、戦場で誰かを守りながら
戦える程の実力が備わっていないことは把握していた。
「放っておいてよ!
あいつらから聞いたでしょ!
それともあんたもやりたいの」
のろのろと立ち上がると、レイピアを持ち直した。
「死にたい。あんたたちみたいな恵まれた出自なら
あんな奴らに良いようにされなかったのに」
持ち直したレイピアを引き摺りなら、
オークの前に無防備な姿を晒した。
「ぶぎいいぃ」
オークは視界に入った娘を威嚇すると、
棍棒を振り上げた。
ランクの低いオークであったため、その動作は緩慢であったが、
頭にその一撃を喰らえば、即死であった。
考えるよりも先に誠一の身体が動いた。
オークの厚い脂肪と筋肉には、メイスの打撃では
効果が薄いと判断し、瞬時にエアスライサーを
至近距離から撃ちこんだ。
オークの腹は切り裂かれて、そこら中に血と臓物を飛散させた。
「うええっ」
何度、経験しても慣れないグロい状況に呻いてしまった。
娘は何も感じないのか無言だった。
その場に倒れたオークは死にきれないために
苦悶の表情をしていた。
娘はオークの首筋をレイピアで一閃した。
「ねえ、恵まれたあなたに分かる?
コレと同じで死んだ方がマシな状況があることが」
20数年を生きて、それなりの経験をしてきたつもりの
誠一だったが、その経験から彼女にかける言葉を見出すことが
出来ずにいた。
心が死にかけている彼女にどう答えていいか分からず、
誠一はありきたりな言葉しか言えなかった。
「えっと、死ぬのはいつでもできるからさ。
とりあえず助けたんだし、生きてみては」
侮蔑したように誠一を見る娘は、嘲笑した。
「そうやって、感情が動くうちは何とかなるさ。
目の前で人が死ぬのを見るのは嫌なんだよ」
「あっはははっー。
あなたの都合で死んでほしくなってこと?
馬鹿じゃないの。本当に馬鹿らしい。
それでそれで、貴重なアイテムを使ったり、
A級の冒険者に盾突く訳なの。
頭、おかしい。本当におかしい。
いいわ、ひとまず、この戦場では死なない。
終わったら、人知れず死んでやるわ」
誠一は一先ず、最悪の事態は回避できたと思い、頷いた。
「そうして貰えると助かるよ。
実際の所、大量の人の血が流れ出るのを見ると、
腰が震えて力が入らなくなるんだよ」
戦場ではありきたりのその光景だが、
異常な気分であったのだろうか、あまり気にならなかった。
しかし、心が落ち着き、周囲を冷静に見渡せるようになると、
誠一は今の言葉通りに少しでも気を緩めれば、
腰が震えて、力がはいらなかった。
「サリナ。名前はサリナ。
短い間だろうけど、一応、伝えておく。
どうでもいいけど、内なる心に目覚めし者として、
神の声を聞くことができるから。
糞みたいな神だけどね」
自分と同様に碌でもないプレーヤーに
引き当てられたことに誠一は同情した。
自分と同じようにプレーヤーに盾突き、
「神々への反逆者」の称号を得ることができれば、
自由になれるが、それは難しいことであった。
屑プレーヤーの指示とどう付き合っていくか、
現時点では誠一に良案はなかった。
そのことが彼女の人生に再び暗い影を落とさないことを
祈るばかりであった。
誠一の側には、座り込んで動かない剣士の娘しかいなかった。
彼女を守りながら誠一は話し掛けた。
「動けそう?」
言葉に反応しているようだったが、答えることはなかった。
「多分、魔物たちは、ヴェルトール王国軍によって
駆逐されるか逃散すると思う。
まだまだ、危険だから立てるなら、立って戦ってほしい」
きついことを言っていることは誠一も重々、
承知していたが、戦場で誰かを守りながら
戦える程の実力が備わっていないことは把握していた。
「放っておいてよ!
あいつらから聞いたでしょ!
それともあんたもやりたいの」
のろのろと立ち上がると、レイピアを持ち直した。
「死にたい。あんたたちみたいな恵まれた出自なら
あんな奴らに良いようにされなかったのに」
持ち直したレイピアを引き摺りなら、
オークの前に無防備な姿を晒した。
「ぶぎいいぃ」
オークは視界に入った娘を威嚇すると、
棍棒を振り上げた。
ランクの低いオークであったため、その動作は緩慢であったが、
頭にその一撃を喰らえば、即死であった。
考えるよりも先に誠一の身体が動いた。
オークの厚い脂肪と筋肉には、メイスの打撃では
効果が薄いと判断し、瞬時にエアスライサーを
至近距離から撃ちこんだ。
オークの腹は切り裂かれて、そこら中に血と臓物を飛散させた。
「うええっ」
何度、経験しても慣れないグロい状況に呻いてしまった。
娘は何も感じないのか無言だった。
その場に倒れたオークは死にきれないために
苦悶の表情をしていた。
娘はオークの首筋をレイピアで一閃した。
「ねえ、恵まれたあなたに分かる?
コレと同じで死んだ方がマシな状況があることが」
20数年を生きて、それなりの経験をしてきたつもりの
誠一だったが、その経験から彼女にかける言葉を見出すことが
出来ずにいた。
心が死にかけている彼女にどう答えていいか分からず、
誠一はありきたりな言葉しか言えなかった。
「えっと、死ぬのはいつでもできるからさ。
とりあえず助けたんだし、生きてみては」
侮蔑したように誠一を見る娘は、嘲笑した。
「そうやって、感情が動くうちは何とかなるさ。
目の前で人が死ぬのを見るのは嫌なんだよ」
「あっはははっー。
あなたの都合で死んでほしくなってこと?
馬鹿じゃないの。本当に馬鹿らしい。
それでそれで、貴重なアイテムを使ったり、
A級の冒険者に盾突く訳なの。
頭、おかしい。本当におかしい。
いいわ、ひとまず、この戦場では死なない。
終わったら、人知れず死んでやるわ」
誠一は一先ず、最悪の事態は回避できたと思い、頷いた。
「そうして貰えると助かるよ。
実際の所、大量の人の血が流れ出るのを見ると、
腰が震えて力が入らなくなるんだよ」
戦場ではありきたりのその光景だが、
異常な気分であったのだろうか、あまり気にならなかった。
しかし、心が落ち着き、周囲を冷静に見渡せるようになると、
誠一は今の言葉通りに少しでも気を緩めれば、
腰が震えて、力がはいらなかった。
「サリナ。名前はサリナ。
短い間だろうけど、一応、伝えておく。
どうでもいいけど、内なる心に目覚めし者として、
神の声を聞くことができるから。
糞みたいな神だけどね」
自分と同様に碌でもないプレーヤーに
引き当てられたことに誠一は同情した。
自分と同じようにプレーヤーに盾突き、
「神々への反逆者」の称号を得ることができれば、
自由になれるが、それは難しいことであった。
屑プレーヤーの指示とどう付き合っていくか、
現時点では誠一に良案はなかった。
そのことが彼女の人生に再び暗い影を落とさないことを
祈るばかりであった。
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に
リョウ
ファンタジー
辺境貴族の次男レイ=イスラ=エルディア。 実は、病で一度死を経験した転生者だった。 思わぬ偶然によって導かれた転生先…。 転生した際に交わした約束を果たす為、15歳で家を出て旅に出る。 転生する際に与えられたチート能力を駆使して、彼は何を為して行くのか。 魔物あり、戦争あり、恋愛有りの異世界冒険英雄譚がここに幕を開ける!
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします
ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。
彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。
転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。
召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。
言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど
チートが山盛りだった。
対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」
それ以外はステータス補正も無い最弱状態。
クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。
酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。
「ことばわかる?」
言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。
「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」
そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。
それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。
これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。
------------------------------
第12回ファンタジー小説大賞に応募しております!
よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです!
→結果は8位! 最終選考まで進めました!
皆さま応援ありがとうございます!
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣
ゆうた
ファンタジー
起きると、そこは森の中。パニックになって、
周りを見渡すと暗くてなんも見えない。
特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。
誰か助けて。
遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。
これって、やばいんじゃない。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる