上 下
225 / 830

227.輜重隊出征16

しおりを挟む
「えっ、ちょっと、やだ。
なんでアル君たちがここに!
ロジェ、何で起こしてくれなかったの?」
ロジェに比べて、元気そうであった。
それでもその表情から疲労は蓄積しているようであった。

部屋の外からロジェの声が聞えて来た。
「どうしてもと3人が言うことを聞かないからさ。
俺は出来る範囲で止めたぞ」

かけていた毛布を顔の前に持ち上げて
両手でしっかりと掴み、もじもじしながら、
恥ずかしそうに上目づかいで誠一の瞳を
覗き込んでいた。
「もしかして何か聞えた?」

「もちろう、うげぇー」
ヴェルが突然、呻いた。
シエンナが鳩尾に鉄拳を加えた。
誠一には後ろで何が起きたか理解できた。
そして、選択肢を違えることはなかった。

「いや何も聞えませんでしたよ。
すうすうと寝息を立てていた
無防備なキャロリーヌさんの寝顔が
見えただけです」

「そっそう、なら良かった。
あんまり女性の部屋を無遠慮に
開けるものじゃないわよ」
そう言うと、キャロリーヌは、毛布から手を離して、
くんくんと自分の腕回り等を嗅ぎ始めた。

彼女の突然の行動を誠一は理解できずに
間抜けな表情を晒してしまった。
「キャロリーヌさん、どうしました?
何もついていませんよ」

白い頬を桜色に染めるキャロリーヌ。
「ううん。
あまり肌を拭えてないから、ちょっと、
嫌な臭いがしないか気になっちゃった」

彼女の心配事を誠一は理解して、
安心させるために近づいた。
くんくん、鼻を近づけ、彼女の匂いをかいだが、
少し彼女の汗の匂いが混じっているだけで、
いつもの良い香りした。
「いえ、心配ないです。
いつもの良い香りがしますよ」

彼女の顔はこれ以上ない位に
真っ赤に染まっていた。
そして、恥ずかしそうに俯いていた。
普段、明朗活発で少しエロい彼女が
乙女のように恥じらう姿のギャップに
誠一の心臓は激しく動いていた。
脈動する血流は、至る所を緊張・膨張させていた。

誠一の軟派な行動と表情が
あまりにも自然であることをシエンナは、
半ば諦めていたが、一先ずキャロリーヌから
離そうと行動に移った。
「ちょっと、アル!鼻息が荒いわよ。
キャロリーヌさんも疲れているから、
安否が確認できたから、部屋を出よ」
シエンナに肩を揺すれて、我に返る誠一だった。
シエンナとキャロリーヌが誠一を挟んで
何やら言い争いをしていたが、そんなことを全く気に
しない男が一人いた。

「兄貴の衰弱の原因も分かったことだし。
そんなくだらない言い争いより、
姉貴、戦場の様子を教えてくれてよ」

「むっ」

「むっ」

二人の女性が口をへの字に曲げたが、
キャロリーヌがため息一つついて、話始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。 全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。 もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。 貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。 思いつきで適当に書いてます。 不定期更新です。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...