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212.輜重隊出征1
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王都グリーンシティより、何台もの馬車が連なり、
出発した。最前線への補給物資の輸送であった。
護衛につくのは、魔術院、騎士養成校いった学園に
所属する学生たちであった。
「ふぁああー」
馬上で大あくびをするヴェルであった。
春の陽気が彼を眠気に誘っていた。
それは他の学生にしても同様であった。
これが正規の騎士団や雇われの傭兵であれば、
鉄拳制裁待ったなしであったであろう。
彼らの管理する騎士は彼ら学生の態度を見て、
短く舌打ちをした。
碌な訓練も受けずに突然の出征であり、
彼等に常時、緊張を強いることに無理があることは、
騎士も重々に承知していた。
「くそ。
本当にこれで輜重が襲われて、防衛できるのかよ」
「さあな、知るかよ。
足を引っ張らない程度しか期待できないだろうな」
騎士たちの不安をよそに学生たちは、
ひそひそとこの出征について、話をしていた。
輜重隊を纏める隊長のカルバーは、
隊の状況を苦々しく感じていた。
隊に所属すれば、兵の一員であり、
階級の高い者の命令は絶対であるはずだが、
後々、親に泣きつかれて、讒言されるもの
馬鹿らしいと思い、軽い注意に留め居ていた。
それなりの人数であり、魔物や盗賊の類が
標的にすることもあるまいと自分を
納得させているカルバーであった。
「いい加減にしろ、貴様ら!
戦場の遥か後方とはいえ、軍に所属する以上、
その規律に従え」
後方からの怒声にカルバーはうんざりしてしまった。
学生間でのいざこざの仲裁までしなければ、
ならないと思うと、ここは学校じゃねえと
怒鳴りつけたく衝動に駆られてしまった。
報告に来た騎士を怒鳴りつけると、
仲裁のために諍いの場に向かった。
「やれやれ、ストラッツェール家のご子息様か」
カルバーの憂鬱な気分は、問題を起こしているのが
侯爵家の子息と言うことで更に拍車がかかってしまった。
怒鳴り声の響き渡っている集団に近づくと、
どうやらご子息様が一方的に
怒鳴り散らしているようであった。
手は出していないようで、カルバーは一安心したが、
願わくば侯爵家の権威を笠に着て、無茶苦茶な主張を
していないようにと祈るばかりであった。
「常在戦場!輜重を警護している以上、
ここは既に戦場の一端だぞ。
その緩み切った態度を改めろ!」
ストラッツェール家のご子息様の演説は
更に続いた。
「ここで輜重を失うようなことになったら、
それは戦場の趨勢を左右するほどの
由々しきことだということを理解しているのか!
軍律によって、処罰も免れないぞ。
無論、親の権勢に泣きつこうとも軍律は絶対だ」
ストラッツェール家のご子息様の演説は
一呼吸おいて、続いた。
「ゆえに俺は貴様らに恨まれようとも
貴様らを叱咤激励する。
ヴェルトール王国軍としての責と矜持を持てと」
ストラッツェール家のご子息様の演説は
終わることなく続いていた。
学生たちの一団をよく見ると、
心酔しているような者たち、
めんどくさげに聞いている者、
明後日の方を見ている者とまちまちであった。
出発した。最前線への補給物資の輸送であった。
護衛につくのは、魔術院、騎士養成校いった学園に
所属する学生たちであった。
「ふぁああー」
馬上で大あくびをするヴェルであった。
春の陽気が彼を眠気に誘っていた。
それは他の学生にしても同様であった。
これが正規の騎士団や雇われの傭兵であれば、
鉄拳制裁待ったなしであったであろう。
彼らの管理する騎士は彼ら学生の態度を見て、
短く舌打ちをした。
碌な訓練も受けずに突然の出征であり、
彼等に常時、緊張を強いることに無理があることは、
騎士も重々に承知していた。
「くそ。
本当にこれで輜重が襲われて、防衛できるのかよ」
「さあな、知るかよ。
足を引っ張らない程度しか期待できないだろうな」
騎士たちの不安をよそに学生たちは、
ひそひそとこの出征について、話をしていた。
輜重隊を纏める隊長のカルバーは、
隊の状況を苦々しく感じていた。
隊に所属すれば、兵の一員であり、
階級の高い者の命令は絶対であるはずだが、
後々、親に泣きつかれて、讒言されるもの
馬鹿らしいと思い、軽い注意に留め居ていた。
それなりの人数であり、魔物や盗賊の類が
標的にすることもあるまいと自分を
納得させているカルバーであった。
「いい加減にしろ、貴様ら!
戦場の遥か後方とはいえ、軍に所属する以上、
その規律に従え」
後方からの怒声にカルバーはうんざりしてしまった。
学生間でのいざこざの仲裁までしなければ、
ならないと思うと、ここは学校じゃねえと
怒鳴りつけたく衝動に駆られてしまった。
報告に来た騎士を怒鳴りつけると、
仲裁のために諍いの場に向かった。
「やれやれ、ストラッツェール家のご子息様か」
カルバーの憂鬱な気分は、問題を起こしているのが
侯爵家の子息と言うことで更に拍車がかかってしまった。
怒鳴り声の響き渡っている集団に近づくと、
どうやらご子息様が一方的に
怒鳴り散らしているようであった。
手は出していないようで、カルバーは一安心したが、
願わくば侯爵家の権威を笠に着て、無茶苦茶な主張を
していないようにと祈るばかりであった。
「常在戦場!輜重を警護している以上、
ここは既に戦場の一端だぞ。
その緩み切った態度を改めろ!」
ストラッツェール家のご子息様の演説は
更に続いた。
「ここで輜重を失うようなことになったら、
それは戦場の趨勢を左右するほどの
由々しきことだということを理解しているのか!
軍律によって、処罰も免れないぞ。
無論、親の権勢に泣きつこうとも軍律は絶対だ」
ストラッツェール家のご子息様の演説は
一呼吸おいて、続いた。
「ゆえに俺は貴様らに恨まれようとも
貴様らを叱咤激励する。
ヴェルトール王国軍としての責と矜持を持てと」
ストラッツェール家のご子息様の演説は
終わることなく続いていた。
学生たちの一団をよく見ると、
心酔しているような者たち、
めんどくさげに聞いている者、
明後日の方を見ている者とまちまちであった。
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