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177.悩み事3

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「ってことは、シエンナ、おまえ、
最初は自分が見つめられてるって、
勘違いしていた訳ねー。
残念だったな、あんなイケメンに
好かれることなんてないのにな」

なぜ、ヴェルは余計な一言を常に言うのだろうと
素朴な疑問を感じつつも不快な視線の正体が分かり、
ほっとする誠一だった。

「はっ、違うし、あんなのいらないし。
わたしは、その」
そう言って、誠一をチラ見みして、
ヴェルの鳩尾に一撃を加えた。

「ぐえっ、とにかく後はアルの仕事だな。
さっ寮に戻って、飯、飯にしよう」

「あんたはその前に今日の復習をしなさい。
講義の半分は、ぼんやりとしてたでしょ」

結局、一番、めんどくさいことは
誠一がしなければならないことで話は纏まった。
そして、いつの間に普段と変わらぬ会話が
寮までの帰り道で繰り返されていた。

 翌日、背中に視線を感じた時、振り返って、
ファブリッツィオの方を誠一は見た。
ファブリッツィオは、慌てて顔を背けた。
どうやら昨日の話は本当のようであると確信した。
その後も何度か確認をする誠一だったが、
振り向けば、ファブリッツィオと視線が合った。

誠一はその視線の意味するところが
分からずにいた。

「そんなの決まってるよ。
ストラッツェール家は、強者を好むし、
その血を取り入れて来た家系だからね。
んー男同士だとどうなるんだろう。
ありなのかな?」
シエンナがどうせまた、怪しい恋愛小説から
得た知識で知ったかぶりを始めていた。
しかし、誠一は、あながち冬の寒さからでなく、
あの熱い視線で悪寒を感じていた。
シエンナの話を真に受けているヴェルが若干、
離れている気がした。
「ヴェル、僕にはそんな趣味がないのは
知っているだろう!」

「いや、そりゃそうだ。
リシェーヌ、シエンナに姉貴、確かにそうだな。
でもよ、ファブリッツィオの味を知ってしまったらなあ、
怖いじゃん。俺、無理だし」

「はいはい、彼に手籠めにされない限り、
アルも変なことに目覚めないでしょ。
アル、さっさと、この訳わかんない状況を
打破するためにアレと話してきて」
急かすシエンナに一定の距離をおくヴェルであった。
仕方なしに今日の講義終了後に話しかけることにした。

 今日の誠一にとって、最後の講義終了までが
異常に早く感じられた。

これから始まる面倒事のことを思うと
憂鬱になってしまった。
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