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172.新学期4

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「ぐっ」
膝をついたのはファブリッツィオであった。
杖は投擲されていた。

そして、シエンナはファブリッツィオの右側面に
シフトして、左腿にきつい蹴りを放っていた。
靴には鉄鋼があてがわれているようであった。
追撃しようと右脚が振り上げられていたが、
剣豪にそこで止められた。

ローブの下は、動きやすい薄着であった。
彼女の豊かな肢体が十分に見て取れる服装に
男子は釘付けであった。
片膝をついたファブリッツィオに容赦なく追撃を
加えようとしていたことで一部の女子から
冷たい視線を送られていた。
無論、彼女の魅力的な肢体に嫉妬も入り混じっていた。
 
賞賛やらやっかみが入り混じる中で、
ファブリッツィオは顔を上げられず、
地面を見続けていた。

心に溢れる憎悪をどうすこともできなかった。

誠一たちに対する嫉妬、羨望。

どうあがいても追い越せぬ壁。

叩き潰される侯爵家の矜持。

何度も破られる王国の危地を
何度も救ってきたとされる
ストラッツェール家に伝わる秘技への懐疑。

多くの事柄がファブリッツィオの心を闇へ誘った。

頭を垂れたままのファブリッツィオに
剣豪が声をかけた。
「ふむ、剣であれば、結果は真逆であったでしょうな。
杖では剣速が著しく落ちる故、
そこにシエンナは勝機を掛けたのでしょう」

誠一にローブを着せられて、ふらつくふりを
して誠一にもたれ掛かるシエンナに小石を
投じた剣豪が話を続けた。
向こうの方から、「ぎゃっ」
という短い悲鳴が聞こえた。

「あの侯爵家の無能な嫡子よりはましか。
まあ、まだ遅くない。必死に剣を振りなさい。
それとあの名前を何と言ったかな、
確かティルモアだったかな。
彼と迷宮に挑んでも全く役に立ちません。
無駄に称号を得たり、
レベルが上がっても強くはなれぬ」

ファブリッツィオはゆっくりと顔を上げた。
葛藤するファブリッツィオは言葉を選びながら、
吐き出す様に剣豪へ訴えた。
「兄、ティモフェイの意向には逆らえません。
わが身はストラッツェール家と共にあります。
いたずらに家名を汚すことはできません」

「ふーむ。まっそれならいいけど、
数年後には君の取り巻きにも追い越されるよ。
それこそ家名を汚すことになると思うけどね。
ティルフゥイだかの意向に背くことは
決して家名を汚すことにならないと思うけど」
そう言い残すと剣豪は、小石をぶつけられてなお、
いちゃついてる誠一とシエンナに喝を
入れるべくその場から、離れた。

「くそっ、どうすればいいって言うんだ」
再び俯き、地面と見ているが、地面は黙して何も
ファブリッツィオの問いに応えなかった。
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