転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

160.凱旋4

「何でもないって顔をしてないよ、アル！
鏡を見てきた方がいいって」

誠一は一人になりたかっため、
シエンナの助言に従い、部屋を出た。

ひょっこりと剣豪が誠一の前に突然、現れた。
こいつ、千里眼の称号でも持っているのかと
疑いたくなるようなタイミングであった。

「そろそろ、アルフレート様が
今回の一連の件について、あれこれと詮索して、
思い悩んでいる頃かと思いましたので」

「ええ、そうですね。
もし、自分の考えが正しければ、
先生を到底、受け入れられません」

この世界の実力者は、ファウスティノにしろ、
眼前の男にしろ、どうも誠一にとって、
両手を広げて尊敬できない人物ばかりであった。

「アルフレート様、あなたは、事実のみを
受け入れればいいのです。
例えそこに何かしらの策謀があったとしても
それはあなたが受けるべき責ではないでしょう」

「伯爵家のごたごたで犠牲になった民が
いるならば、それは伯爵家に連なる者が
受けるべき責だろうよ。
リゲルの犯した罪に関して、エスターライヒ家は
言い逃れできぬ」

誠一は、剣豪の目を正面から見据えた。
その瞳には、絶対に自説を曲げないとする
強い意志が宿っていた。
まったりと学生生活を送っていた
甘っちょろい誠一はこの世界が揉まれて、
精神的に成長していた。

「良き瞳です。
その素志を忘れぬように精進なさい。
力なき者がいくら吠えても何も変わりませぬ。
どちらにせよリゲル様が裁かれて、
あの件はしまいです。
あとはあなたの心の持ちようです」

軽い、人の命が軽すぎる。
策謀の犠牲になった領民のことを思うと
たまらなかった。
必要悪として、割り切っている剣豪の感覚に
ついていくことができなかった。

いつの間にか剣豪は消えていた。
言うべきことは言ったと判断したのだろう。
誠一は鏡に写る自分を見て、思った。
我ながら酷い顔だ。
そして、鏡には心配そうなシエンナが写っていた。
いつの間にかシエンナが後ろに立っていた。

何も言わずにシエンナは後ろから誠一を抱きしめた。
シエンナの豊かな胸を背中に感じた。
これほどに思い悩んでいるにも関わらず、
背中に感じるふくよかな彼女の胸に意識が
集中している自分が恥ずかしかった。

しばらくすると、シエンナは誠一から離れた。
「アル、あんまり抱え込まないでね。
私だけなく、ヴェルやラムデールも心配してるよ。
解決はしないかもしれないけど、話せば少しは楽になるから」

「シエンナ、ありがとう。少し落ち着いたよ。
顔を洗って、王都へ戻る準備を始める」

誠一が顔を洗いはじめるとシエンナは「うん」とうなずき、
部屋に戻っていった。