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146 遠征5

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「やれやれ、あれを中心部で受けてさえ、
無傷ですか。これは骨が折れますな」

「くっくっく、中々な技だったが、
所詮は短き生のニンゲンの技、
我々の脅威とはならんよ。
してお前は何を見せる」
剣豪を前にして、立とうともせず、
ニヤリと笑っている魔人だった。

周りで呻いている魔物を
助けようともしなかった。
否、そこで苦しんでいるという
認識すらないのかもしれなかった。

「ふむ、今日日の魔人は、冗談を好むと見える」
剣豪もニヤリと笑った。
よく剣豪の言っていることが
理解できなかった魔人は問い返した。
「何を言っている?」

「そっ首がこれから飛ぶのに
何も見える訳ないでしょうに。
頭も悪いと見える」
飄々とした態度に魔人は怒るどころか、
呆れていた。

「さっきの技で俺がこいつらの様に
瀕死にでもなると思ったか。
それすら分からぬ低ランクが状況を
理解できずに混乱しておるわ。
HR程度でこの場に現れるな」

「やれやれ、魔界もレア度至上主義ですか。
まったくどこの世も生きにくいことよのう」
飄々とした態度で剣豪は、呆れていた。

「これからおまえは死ぬのだ、
この世が生きにくくても関係あるまい」
魔人は立ち上がり、一気に剣豪との距離を
詰めた。
両手に武器もなし、身体に防具もなし、
己の肉体のみで剣豪に襲いかかった。
魔人は、力任せに拳を繰り出した。
その拳は、HR程度のランクの者では
躱すこと叶わない速度であった。
何発か繰り出された拳を紙一重で
事も無げに躱す剣豪であった。
剣豪に触れるは、拳速により
生じた風圧だけであった。
まだ、彼は刀すら抜いていなかった。

「さて、そろそろ心地よい風を
受けるのもあきてきましたな」
普段ののほほんとしたにこやかな感じはなく、
瞳と口元がつり上がり、剣豪の表情は、
酷く酷薄な印象を与えていた。

「くっくっく、それが貴様の本来であったか!
その顔がどのように苦痛で歪んでいくか。
ぐううっ、想像するだけもでも笑いが止まらぬわ」

 誠一は3人へ素早く指示を出した。
「ヴェル、シエンナ。
可能な限りの補助魔術を僕にかけて。
魔力を回復させたら、今度は自分たちにかけて。
それが終わってから、移動するように。
いいね、僕らは牽制だから、絶対に無理はしないように」

「んー。おい、アル。
魔術で強化させると普段の感覚と
変わるからどうこうって先生が言ってなかったか?」
ヴェルが先生の言葉を思い出していた。

「先生ほどの実力なら、そうだけどね。
僕の武器は、これさ!
だから、細やかな挙動は必要ないし。
メイスに最も重要なのは、技術より
力・速度だから。それで相手を叩き潰す。
そもそも僕らにはまだ、
さほどの技術は身についてない。
身体能力で圧倒するしかないよ」
そういって、7面メイスを
片腕で振り回す誠一だった。
凄まじい風切り音が周囲に響いた。

「おっおう、じゃ、かけるぞ。
後で身体中が軋むような痛みになるけど、泣くなよ」

「合点承知!」
ヴェルの叫びにノリよく、
片腕を振り上げて、応じる誠一だった。
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