上 下
145 / 830

145.遠征4

しおりを挟む
「くっ、神は村に鎮座する魔物を
倒せとの仰せだ。みんな、覚悟はいいな」
誠一はやけっぱちになり、漆黒のマントを羽織って、
出来得る限り真剣な表情をした。

誠一の身体に力が漲っていた。
神の啓示を受けた影響だろうと思った。

「おおっー神託が下された!
アル、行くぞ。
このまま、向こうに合流するか?」
ヴェルは勇んで、吠えた。

シエンナは両手を重ねて、祈っていた。

ラムデールはまじまじと誠一を見つめていた。

「シエンナ、祈るのは後で、
今はあの魔物を倒すことを考えよう」
シエンナは頷いた。
誠一は恨めしそうに天を見上げて、
誰にも気づかれないように舌打ちをした。
ちっ、余計なことをしやがってと!

「啓示には続きがある。戦うのは、僕だけだ。
3人は一緒に向かっても可能な限り防御に徹してくれ。
攻撃系の魔術や技は必要ない。
防御系と補助系の魔術と技に魔力、体力、
そして気力を割いてね。
いいね!これは神様からのお願いだよ」

三人は頷いた。
そして、誠一は更に指示を追加して、
それを守るように3人へ念押しをした。

 誠一が神の啓示を利用して、茶番劇を
演じる数分前、剣豪とキャロリーヌは、
魔物の一団を視界に捉えていた。

「あー結構、厄介なのもいるわねー。
まあ、あれをつかうかな。
一撃ではちょっと倒しきれないかも。
残りは任せるわよ」

「アレとは?」

「広域を攻撃する技よ。
限界まで体力と気力を使うから、
技を放った後は回復するまで
しばらく動けないわ」
キャロリーヌは、その場に留まり、
集中し始めた。

「あとは何とかしましょう。
見目美しい女性が魔物に蹂躙されるのを
見るのは心が痛みますからね」

「ぷぷっ、このむっつりスケベが!
あの時も覗いてたでしょ。
魔物に襲われても木陰から
覗くつもりでしょ、この変態」
軽口を叩きながらも集中力を
切らさないキャロリーヌ。

剣豪は頭を掻きながら、
その前を飄々と歩き始めた。

「ぐううっ」

キャロリーヌは弓の弦を限界まで引き絞った。
矢はキャロリーヌの真上を指していた。

「一本の矢よ。その矢尻へ神の拳を顕現させよ。
フォストゴッテスっー」

放たれた矢は、空を切り裂き、
天に突き刺さらんとする勢いであった。
人の視界より消えた矢は、神の拳を引き連れて、
魔人に向かって降下を始めた。
遠目には、矢の周りに発生している気流が
まるで巨大な拳が振り下ろされるように
見えたであろう。

 茶番劇を終えた誠一たちにも
その光景は見えていた。
技の迫力に圧倒され、呆然とするヴェル、
シエンナ、そしてラムデールだった。
誠一は呆然と立ち尽くす3人へ急ぎ、
向うことを促した。

巨大な拳が着弾すると、魔人を中心として、
直径50mほどの範囲の木々を打ち飛ばし、魔物を倒した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

処理中です...