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143.遠征2

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「何なんだよーここら辺は、
魔物がほとんどいないはずだろっ」
ヴェルがハルバートで魔物を
突き刺しながら、叫んだ。

「そんなの知らないわよ。
それよりアル、体調はどう?」
シエンナは心配そうな表情であった。

「なんとかね」
誠一は、全身に汗を流しながら、
眼前の魔物を倒し、何とか答えた。

誠一たちは今、魔物の討伐依頼の極端に
少ない地域にある村の側で魔物に遭遇していた。
小鬼や魔犬といったさして彼らにとって、
脅威とならない魔物たちであったが、
ひっきりなしに現れることに辟易していた。

 魔物の出現が一息つくと、
彼等は魔石も取らずに馬車を進めた。

「これほど魔物が発生しているのに
依頼がないのは、そういうことでしょうね」
キャロリーヌが視界の先に見える村の入り口を
見つめていた。

「いと仕方なし。それより気づいています。
隠す気もなさそうで、余程、自身があるようですな」
剣豪も村の入り口を見ながら、ニヤリとした。
剣豪は、腰に二本、背中に1本の刀を差していた。

「おい、ラムデール。
先生の持っている刀って、どんな業物なんだ?」

ヴェルの問いにラムデールは首を振った。
「あの刀を抜いたところは見たことない。
普段は、屋敷にある剣を使っているからな」

「おい、馬車の操作を代われ。
俺はここから消えるぞ」
馬車を止めると、すぐにスターリッジは
森に消えていった。

「馬車を入り口付近に付けて歩きましょう。
どの道、向こうさんは隠れる気配もなく、
待っているようですから」

「そうね。
周りにいる雑魚は、一気に屠った方が良さそうかな。
一撃では死なないでしょうけど、数の脅威はなくなる。
まあでも、そうなると体力と気力が
回復するのに少し時間がいるけど、いい?」

キャロリーヌと剣豪が話し合っているが、
誠一たちには一切、指示がなかった。

「姉貴、俺らはどうするんだ?
流石にこの殺気だ。俺らにもわかるぞ」

剣豪は困った顔をしていた。
普段の飄々とした雰囲気が全くなかった。

「うーん、そうね。
馬車でここから全力で逃げなさい。
それが一番」

「はっ?何言ってんだよ。
舐めんな、多少なりとも戦力なるだろ、げぼぅ」
突然、ヴェルは両膝をついた。
そして、何度も咽ていた。

「そういうことなのよね。
あそこに鎮座してるのは、おそらく下級魔人。
私も会敵するのは初めてだけど、
アレはね、まだ、力を抑えているのよね。
私たちでも足止め程度に
終わる可能性があるのよ」
キャロリーヌの有無を言わさない
力強い言葉に誰も反論できずに俯いていた。

「そういうことです。
何度か下級の魔人と会敵したことが
あますが、中々なのです。
アレは、その中でも飛びぬけています。
ちょっと守りながらは無理ですので」
右手をひらひらと振りながら、
困ったような表情の剣豪は村の中心部に
目を向けた。

「さてと、キャロリーヌ。
覚悟はおありでしょうか?
あるなら行きますかな」

「ふううっーしゃーない。
こういうのは本来、長男のロジェの
役割なんだけどねー。
シエンナ、ここの馬鹿3人が
無謀な行動に出ないようにしっかりと
手綱を握っときなさい。
でないと本当に死ぬわよ」

二人は村の中央部に向かって歩き出していた。
普段と変わらぬ声、表情であったが、
全身から発する雰囲気に誠一たちは
圧倒されて、動くこともままならなかった。
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